責任を負えないのであれば、釈明をしない方がまだマシだ。
韓国サッカー協会(KFA)の審判委員会は、去る7月12日に行われたKリーグ1(1部)第22節の仁川(インチョン)ユナイテッド対蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)の試合で発生したMFイ・ギュソン(29、蔚山現代)の行為について、事後懲戒を下さないことを発表した。
問題の行為が発生したのは、両チーム無得点で迎えた後半3分頃だ。
当時、イ・ギュソンは攻撃の過程で相手DFムン・ジファン(28)のマークを受けていた。すると、敵陣左サイドで味方にパスを出した直後にムン・ジファンの方に顔を向け、右腕を高く振り上げて顔面を殴打したのだ。
顔を殴られたムン・ジファンはそのままピッチに倒れ、苦痛を訴えた。
第三者から見て、イ・ギュソンの行為は明らかに故意性を帯びたものであり、ピッチ上で起こり得る最も悪質なファウルだった。
宙に浮いた状態で肘を振り回したとしてもレッドカードが出る。であれば、イ・ギュソンは疑いの余地なく退場となるべきだった。
しかし、当時の主審はイ・ギュソンの行為を見過ごした。もっとも、一連の件はボールの近くで発生したため、主審の視野に入っていてもおかしくなかった。
見過ごしたのであれば“無能力”だったと言えるし、仮に見たとしても、そのまま流したのであれば“職務放棄”とみなさなければならないほど、釈然としない場面だった。
例え主審が見逃したとしても、これを訂正すべきVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の判断も変わらなかった。
VARは主審が映像を通じて正しい判定を下せるようにサポートしなければならないが、主審はVAR判定を行わなかった。
コミュニケーションをした結果そうしたのであればさらに問題だ。たった3秒見返したとしても退場性のファウルだとわかるのに、VARが主審に状況を説明しなかったという意味と捉えられるからだ。主審とVARの両方に責任が問われる場面と言える。
そして、審判団の過ちを最終的にチェックして正す“最後の砦”ことサッカー協会も、自らの権威を放棄したようだ。
Kリーグを管轄する韓国プロサッカー連盟の競技評価会は、メディア分析を通じてイ・ギュソンの行為に事後懲戒の可能性があると判断し、KFAの審判委員会に質疑した。
連盟は問題意識を感じ、要請を検討した。にもかかわらず、審判委員会は「反則性プレーではあるものの、一発退場となるほど荒い反則ではない」と判断した。
KFA関係者は「イ・ギュソンが腕を振るった角度とスピードなどから見て、殴打というよりは“押す”行為に近いというのが審判委員会の判断だ」とし、「当時、主審がVARと交信して判断を下した点も考慮した」と説明した。
試合後、韓国ネット上ではイ・ギュソンの行為の瞬間の映像が拡散されて物議を醸した。当然、イ・ギュソンを批判するサッカーファンが大半だった。彼が所属する蔚山のファンもほとんど擁護はなく、冷ややかな視線を向けていた。
ファンだけでなく、Kリーグにかかわる大多数の関係者が同じ意見を発している。
とあるチームの指導者は、「これが退場でなければ、一体何が退場になるのかがわからない。主審、VAR、そしてあのような説明をした協会に恥ずかしさはないのか。我々のチームのことではないのに本当に腹が立つ。“これからはあのような行為をしても退場させない”とも捉えられるだけに、我々もしなければならないのか、とも疑ってしまう」と、KFAと審判団への批判を伝えた。
また別のチーム関係者も、「事後懲戒は当たり前に出ると思った。VARがあったとしても誤審が発生し得るだけに、百歩譲っても当時は状況を確認できなかった可能性があると仮定できる。過去のハン・ギョウォン選手の事件と似ているのではないだろうか。非常に当惑している」と伝えた。
全北現代(チョンブク・ヒョンデ)モータースのMFハン・ギョウォン(33)は、去る2015年5月に行われた仁川とのリーグ戦当時、相手選手の顔面を故意に拳で殴り、韓国プロサッカー連盟から6試合出場停止及び600万ウォン(日本円=約60万円)の罰金処分を受けた。クラブからも罰金2000万ウォン(約200万円)と80時間の社会奉仕が科された。
ハン・ギョウォンほどではないとはいえ、イ・ギュソンがそもそも最初から懲戒を受けないというのは常識では話にならないというのが大半の意見だ。
今後、Kリーグではこの程度のファウルに対して退場処分を与えることができない。
公論化された判定について確実な“ガイドライン”を提示しただけに、今後に多様な場面が発生した場合には、主審やVAR、そして審判委員会は同様の判断をしなければならない。
同様の場面が発生する可能性は低いにしても、イ・ギュソンのように腕を振るってもレッドカードを提示することはできない。まさにKリーグをUFC(総合格闘技)の舞台に変えた決定だ。
なお、イ・ギュソンの行為が発生した仁川対蔚山の試合を担当したVARは昨年10月、優勝の行方をかけて行われた蔚山対全北の正面対決で主審を担当した人物だった。
当時の試合では全北の選手2人が脳震とうを起こすなど、激しい展開になったにもかかわらず、同主審は一貫して釈然としない判定を続け、サッカー関係者のひんしゅくを買った。全北が判定に質疑するために公文書を送る事態にまでなったほどだ。
同じ審判が特定のチームに有利な判定を繰り返せば、例え事実でなくても不必要に疑われてしまう。蔚山の大多数の構成員、そしてファンたちも、このような判断は尊重はおろか望んでもいないだろう。
(構成=ピッチコミュニケーションズ)
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