韓国映画『殺人鬼から~』で10年越しデビューの新鋭監督、処女作に込めたこだわりとは?【インタビュー①】

2021年09月14日 映画 #韓国映画

今年6月30日に韓国で公開されるや否や、「全く新しい韓国スリラーの傑作!(NYAFF)」と絶賛の声が相次ぎ、新時代の逃走“サイレント”スリラーとして話題を集める映画『殺人鬼から逃げる夜』。

本作は、これがデビュー作となる韓国映画界の新鋭クォン・オスンが監督・脚本を努め、革命的に新しい恐怖の追走劇と、命綱なしで物語に放り込まれるようなノンストップで畳みかける衝撃で、観る者を緊張と興奮の渦中に引きずり込むという。

そして来る9月24日に日本公開を控え、本作で10年越しのデビューを飾ったクォン・オスン監督に書面でインタビューを行った。

――耳が聞こえない被害者というのは、これまであまりなかったテーマだと思うが、着想にいたった経緯は?

『殺人鬼から逃げる夜』を作ることになったきっかけは、カフェで『殺人鬼から逃げる夜』ではなく、他のシナリオを書いていた時、手話で話している2人の聴覚障がい者を偶然、見かけたことでした。大声で騒いでいる人たちに囲まれた2人の聴覚障がい者の姿をじっと見守っているうちに、妙にその静けさの中に吸い込まれていくような錯覚に陥ったのです。2人が交わす静かな会話は、他の誰よりも強烈で熾烈に感じられました。同時に、多くの人たちの中で孤立しているようにも見えました。そんな2人の姿を見ながら、さまざまな考えが次々と浮かび始め、シナリオを書き進めることになりました。

クォン・オスン監督

――ドシク役を演じたウィ・ハジュンさんはこれまで、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』で演じたソン・イェジンさんの弟役が印象的だが、殺人鬼役に選んだ理由は?

まず、ウィ・ハジュンさんは演技が達者です。基本的なことではありますが、とても大事な理由です。そして次に、ウィ・ハジュンさんは美男子です。特に笑った時の善良なイメージが気に入りました。ドシクのキャラクターを設定する時に考えたのは、私たちの周囲で普段よく目にするような平凡で善良な印象、あるいは好感の持てる人物でした。そんな平凡に見える人物が平凡ではない行動をした時、観客は強い違和感を覚え、その人物に隠された狂気がより強烈に迫ってくると思いました。

【インタビュー】 “ロマンチックな年下男”が“連続殺人鬼”に!俳優ウィ・ハジュンが見せた「変身」とは

ドシク役のウィ・ハジュン
©2021 peppermint&company & CJ ENM All Rights Reserved.

――主人公のギョンミは耳が聞こえず言葉も自由に喋ることができないので、情報量が制限されると思うが、苦労した点は? 

事件をリードする中心人物として、当初から聴覚障がいを持った主人公を設定していたので、特に苦労したことはありませんでした。このような設定は、映画が伝えようとしているメッセージや劇中の状況をハンディキャップを通して伝えることができ、長所になると思いました。

――有音/無音シーンのバランスで気を付けた点は?

聴覚障がい者の視点と健常者の聴覚が重要な映画であるため、むやみに音を消したり入れたりすると、ともすれば観客が音響トラブルだと誤解するかもしれないと思いました。そこで、ギョンミが初めて登場するシーンからサウンドの使い方について観客が学習できるように、少しずつサウンドの表現方法を考案していきました。その例として、ギョンミと母が会う場面では、近づいてくる母の空間と、母を見ているギョンミの空間のサウンドを差別化し、この映画がサウンドをどのように活用しているのかを観客に明確に認知してもらおうと思いました。そうすれば、それ以降、どんな状況でもサウンドのオンとオフを自然に受け止めることができますから。

ギョンミ役のチン・ギジュ
©2021 peppermint&company & CJ ENM All Rights Reserved.

――ドシクの⻘いマスクや車内のピンク色のライトなど、色にこだわっている印象を受けたが、どのような意図が?

『殺人鬼から逃げる夜』は映画のほとんどの背景が夜です。そのため、私たちが見慣れた夜の色を自然に表現しようとしました。まず路地の照明を使って夜の色を決めた後、その空間で動くキャラクターの色を設定していきました。ドシクは一般人とは異なる精神世界を持った殺人鬼なので、言葉で表現できない殺人鬼の精神世界は、見慣れた夜の色に不釣り合いな色や異質で浮いた感じの色を活用しました。ドシクが別次元の人物であることをより際立たせようとしたのです。そこで選んだのがピンクと紫の中間くらいの印象の車内照明や青いマスク、そしてドシクが着ている服の模様とカラーです。そうすることによって、他のキャラクターは日常、よく目にする色を身につけて夜の色に自然に溶け込んでいますが、ドシクだけが不釣り合いで異質に見えるだろうと思いました。(②に続く)

(文=高 潤哲)

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