いわば、庶民を見殺しにしたのである。
そんな悪政を行った文定王后の弟が、尹元衡(ユン・ウォニョン)だ。彼は才能のある人物ではなかったが、姉が陰の女帝として君臨したおかげで、最終的には領議政(ヨンイジョン/総理大臣に該当)にまで大出世を果たす。
当時は、儒教理念に精通した清廉な官僚たちもいたのだが、尹元衡はあらゆる策略を用いてそういう官僚たちを追放した。
そして、自分の意のままに政治を動かし、賄賂政治で私腹を肥やした。
その尹元衡の妾となっていたのが鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)だ。
彼女は、朝鮮王朝三大悪女の1人に数えられるように、数々の悪行を重ねていった。ついには、尹元衡の妻を毒殺して自分が後妻になった。
(参考記事:最下層の身分から高官の正妻に…鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)の生涯)
さらに、鄭蘭貞は文定王后の手先として、宮中で自ら手を汚して政敵をつぶしていった。まさに、悪の連鎖である。
明宗は優しい心を持った人物だったのだが、なにしろ母親が実権を持っていたので、自分では思いどおりに政治を動かすことができなかった。その点では苦悩が多い王であったのだ。
以上のように、文定王后を中心にして私利私欲に執着する悪人たちが朝鮮王朝を牛耳っていたのが、『オクニョ 運命の女(ひと)』が描いている時代なのである。
(文=康 熙奉/カン・ヒボン)