クラブ史上初の“アジアの舞台”に挑む光州(クァンジュ)FCは、ピッチ内外の問題に頭を悩ませている。
いよいよ開幕する2024-2025シーズンのAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)。韓国勢からはKリーグ1王者の蔚山(ウルサン)HD FC、FAカップ(現コリアカップ)王者の浦項(ポハン)スティーラーズ、そしてACL初出場の光州FCが参戦する。
光州は本日(9月17日)行われるリーグステージの初戦、ホームの光州ワールドカップ競技場に前回ACLファイナリストの横浜F・マリノスを迎え撃つ。
そもそも光州とは、韓国南西部の光州広域市をホームタウンとする地方自治体運営の市民クラブとして、2010年12月にKリーグ歴代16番目に誕生したクラブだ。
光州でプレー経験のある有名選手では、現在FC町田ゼルビアで活躍するFWナ・サンホ(28)がいる。ナ・サンホは同クラブのユース出身で、プロ2年目の2018年にKリーグ2で得点王、年間ベストイレブン、年間MVPの個人三冠を達成した。
光州は2011年のKリーグ参入以降、近年は1部と2部を行き来する“エレベータークラブ”だった。だが、2022年にKリーグ2(2部)で優勝すると、2023年のKリーグ1を3位でフィニッシュ。昇格組ながらACLE出場権を獲得した。
過去にACLに出場した市民クラブとしては仁川(インチョン)ユナイテッドや大邱(テグ)FCなどがあるが、光州はリーグ内で最も“低予算”なクラブとして知られる。
実際、Kリーグを主管する韓国プロサッカー連盟(以下、連盟)が今年1月に発表した2023年の「Kリーグ年俸支出資料」によると、光州の年俸総額は59億5067万6000ウォン(日本円=約6億2863万円)で、1部12チーム中ダントツの最下位。
198億767万7000ウォン(約20億9250万円)で年俸総額トップの全北現代(チョンブク・ヒョンデ)モータースとは3倍以上の差があり、84億494万5000ウォン(約8億8790万円)で年俸総額11位の大邱とも開きがある。
そのような厳しい財政事情をものともせず、光州をアジアの舞台に導いたのが現在チームを率いるイ・ジョンヒョ監督だ。
1975年生まれで49歳の指揮官は、大学サッカー部の監督とKリーグクラブのアシスタントコーチを経て、光州が2部降格した2022年に新監督に就任。監督初挑戦ながら、前出の通り同年の2部優勝、そして翌2023年の1部3位フィニッシュとACLE出場権獲得という快挙を成し遂げた。
特に、クラブの「最多勝利数」「最多勝ち点」「最高順位」をすべて更新した同年には、Kリーグ1の年間最優秀監督候補にも選ばれた。
限られた予算と選手層ながら優れた采配でチームに勝利をもたらす指導力から、韓国国内でイ・ジョンヒョ監督は「Kリーグ最高の戦術家」と呼ばれている。
また、ピッチ外でも歯に衣着せぬ発言をすることから、「韓国のモウリーニョ」という別名もつけられている。
そのイ・ジョンヒョ監督のもと、クラブ初のACLを戦う光州。目標は当然、好成績を収めることだ。
イ・ジョンヒョ監督が「光州というクラブと光州の選手たちを世に知らせる良い機会だと思う。最善を尽くし、上がれるところまで上がってみたい」と意気込みを語れば、かつて2013年にギラヴァンツ北九州でプレーしたキャプテンのDFアン・ヨンギュ(34)も「ファンの応援のおかげでアジアの舞台に進出することができた。良いパフォーマンスでファンに楽しさをもたらしたい」と決意を明かす。
ただ、初出場に対する期待の裏には懸念もある。国内リーグ戦で苦戦が続いているからだ。
開幕直後の3~4月には6連敗も喫した光州は、第30節終了時点で13勝1分16敗の勝ち点40とし、12チーム中7位としている。
順位としては中位に位置するものの、自動降格圏内の12位・仁川(インチョン)ユナイテッド(勝ち点31)とは9ポイント差、入れ替え戦圏内の10位・全北、11位・大邱(いずれも勝ち点33)とは7ポイント差と、まだ残留に向けて安心できる状況ではない。
スプリット方式が採用されているKリーグ1では、第34~38節は上位(1~6位/ファイナルA)と下位(7~12位/ファイナルB)の2グループに分かれての「ファイナルラウンド」として行われる。
そのため、ファイナルBに入った場合は再び下位チームと対戦するだけに、あっという間に順位がひっくり返る可能性もある。
もっとも、光州には降格の心配がないファイナルA進出の可能性も残っている。光州はACLE前最後のリーグ戦、第30節で6位・浦項(勝ち点44)に2-1で勝利。7ポイント差だった同クラブとの勝ち点差を4ポイント差に縮め、ファイナルA入りへの希望を繋いだ。
なお、国内カップ戦のコリアカップでは、準決勝で蔚山に2戦合計2-3で敗れている。
そんな光州のネックとなるのが、ACLEを並行して戦う過密日程だ。
資金力の乏しい光州は選手層が厚いチームではない。にもかかわらず、今夏の移籍市場では一人の新戦力も補強することができなかった。
というのも、連盟が新たに導入した財政健全化制度、いわゆる「Kリーグ版FFP」に違反したからだ。
Kリーグでは各クラブの財務状態改善と合理的な予算樹立、支出管理のため同制度を設けたが、光州は連盟の財務委員会の審査を通過することができなかった。
財務委員会では各クラブの当期予算案と前期の実際の支出結果を審査するが、そこで光州が収益を過大計算した予算を提出。連盟は「光州の提出した選手移籍金と広告収益の予想は現実性がない」と判断したという。
これにより、光州は財務委員会の決定によって連盟から「選手登録禁止措置」を下された。
制度施行初期であるため、シーズン前の時点で契約を終えていた選手の登録は承認された。その代わり、クラブの実際の収入が提出した予算案に記載された収入と一致するまでは、新たな選手の獲得が禁止となった。
ただ、光州は提出した予算と一致した収入を確保できず、夏の選手補強が不可能となった。
そんななか、今年4月のU-23アジアカップにも出場した若手有望株で、チームの主力アタッカーとして活躍していた韓国代表FWオム・チソン(22)が、夏にイングランド2部のスウォンジー・シティへ移籍した。
主力の流出を防げず、その穴を埋める補強ができなかった今、リーグ終盤戦とACLEを並行するには現実的に無理が伴うというのが光州の状況だ。
加えて、ACLEで光州のホームスタジアムとなる光州ワールドカップ競技場の“ピッチコンディション”も問題視されている。
光州は本来、国内リーグ戦やカップ戦では「光州サッカー専用球場」を本拠地として使用している。
だが、同会場は全1万7席中8460席が必要に応じて設置と解体を自由に行える「可変席」となっているため、ACLの規定を満たせず。そのため、2002年日韓W杯のために開場され、以前まで光州が本拠地として使用した「光州ワールドカップ競技場」が、ACLEにおける光州のホームスタジアムとなった。
日韓W杯ではスペイン対スロベニア、中国対コスタリカ、そして準々決勝の韓国対スペインで使用され、「フース・ヒディンク・スタジアム」の別名も持つ光州ワールドカップ競技場。
国際試合で使用されるのは2004年7月に行われた親善試合の韓国対バーレーン以来20年ぶりだが、光州としても公式戦で同会場を使用するのは2020年7月のリーグ戦以来4年ぶりとなる。
ただ、光州ワールドカップ競技場のピッチコンディションは決して良いわけではなく、今夏の猛暑・多湿・大雨などの異常気象によって芝の損傷が激しい状態だという。
加えて、7月には同会場で約300トンの水が使用される歌手PSYのコンサート「PSYびしょ濡れショーSUMMER SWAG 2024」が開催され、芝の管理に大きな影響を及ぼした。
この問題には、イ・ジョンヒョ監督も7月に「ACLの試合をしなければならないのに、(光州ワールドカップ競技場の)芝が損傷するのは明確ではないか。本当にもどかしい気分だ。サッカーだけに集中できる環境であれば良いのに、そのような状況にならない」と苦言を呈したほどだ。
何より、光州ワールドカップ競技場だけでなく、普段から使用する光州サッカー専用球場や練習場の光州サッカーセンターも芝の損傷が激しい。
クラブと市は専門業者を通じて復旧に注力するも、改善されたとは言い難く、最近では芝の管理状態に怒った一部ファンが抗議の意味でデモトラックを送る騒動も起きたという。
こうしたピッチ内外さまざまな懸念を抱えつつ、光州、そしてイ・ジョンヒョ監督は初のACLEの舞台を戦う。
なお、光州は本日の横浜FM戦以降、10月1日にアウェイで川崎フロンターレ、10月22日にホームでジョホール・ダルル・タクジム、11月5日にアウェイでヴィッセル神戸、11月27日にホームで上海申花、12月3日にアウェイで上海海港、2025年2月11日にアウェイで山東泰山、そして2月18日にホームでブリーラム・ユナイテッドと対戦する予定だ。
(構成=ピッチコミュニケーションズ)
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