BTSの兵役問題に関する議論は、残り時間が長くても1年余りとなった。1992年生まれの最年長メンバーであるJINが、今年6月から施行された大衆文化芸術人の入隊延期制度を使ったとしても、現状のままでは満30歳となる2022年末まで入隊しなければならないからだ。
残り時間が迫っているためか、BTSの兵役をめぐる議論は本人たちの意見を置き去りにして雑多に展開され、もはや“論争”になっているといっても過言ではない。
ここでは、これまでの議論の流れを整理しつつ、現在の争点がどこにあるのかを見ていこう。まず今年6月から施行された改正兵役法からだ。
韓国国防部は2020年12月、軍徴集・召集を延期することができる対象に「大衆文化芸術分野優秀者」を追加する内容を含めた兵役法の一部改正を公布した(施行は今年6月)。
それによると、入隊を延期できるのは「大衆文化芸術分野優秀者の範囲は大衆文化芸術人のうち、文化勲章または文化褒章を受けた者」となっており、「大衆文化芸術分野優秀者の入隊延期の上限は満30歳まで」となっている。つまるところ、大衆文化芸術分野の“優秀者”は満30歳まで兵役を先送りできるというわけで、これによってK-POPアイドルも条件を満たせば入隊を延期できる。
BTSは2018年に韓流やハングルの拡散に寄与した功労が認められ、「花冠文化勲章」を受章した。つまり“大衆文化芸術分野の優秀者”だ。よってBTSメンバーは入隊を満30歳まで延期できる。
ただBTSの受章は異例中の異例であることを押さえておく必要がある。いかに異例かということは、文化勲章や文化褒章の受章者の平均年齢が“60歳”という事実だけで十分に伝わるだろう。
そのため兵役について考える30歳未満で「大衆文化芸術分野優秀者」の条件を満たすのは、現状BTSメンバーしかいない。そんな背景があるからこそ、この改正が“BTS兵役法”と揶揄されたりしているわけだ。
ひとまずこれでBTSメンバーが希望すれば満30歳まで入隊延期できるようになったわけだが、まだまだ議論は現在進行形といえる。それは入隊延期ではなく、“代替服務”を許可するべき、つまり“兵役免除”しろという意見が多いからだ。
代替服務とは、特定の資格を持つ人に対して、軍服務の代わりに特定分野の社会活動に参与することで、国防の義務を果たせるようにすることを意味する。それを可能にする文化体育分野の兵役特例制度は、1973年に制定された。体育分野はオリンピックのメダリストとアジア大会優勝者、芸術分野は国際芸術競演大会2位以上入賞者と国内芸術競演大会1位入賞者などが、代替服務の資格を獲得して芸術・体育要員に編入される。
芸術・体育要員に編入されれば、4週間の基礎軍事訓練や定められた奉仕活動に参加し、スポーツ活動や芸術活動を続けることができる。厳密には兵役が免除されるわけではないが、これを一般的に“兵役免除”と呼んでいるわけだ。ただ、BTSをはじめとするK-POPアイドルは大衆文化芸術人であるため、この制度の対象外となっている。
そんな現状を変えて、大衆文化芸術人も代替服務の対象に入れるよう求める声が多い。例えば、韓国音楽コンテンツ協会が7月に関連立場を発表している。
同協会は「BTSは1.7兆ウォン(約1700億円)の経済効果と8000人の雇用効果を創出しているのに、入隊延期の対象になるだけ」と指摘し、「(韓国兵務庁が)免除対象である純粋芸術、スポーツ分野ほど国益に寄与していないと考えているのか、これが公平性に合うと考えいるのか、問い直したい」と伝えた。
また同協会はBTSの兵役免除と関連した記事コメントを分析した結果、「反対する意見よりも賛成が多く、性別や年齢を考慮しても軍服務を履行した男性たちが大多数」であったと強調し、「唯一、大衆音楽界にだけ過酷な基準を設けた兵務庁に、継続的に異議を提起する」と訴えた。
似たような意見は、政界からも出ている。6月25日、ユン・サンヨン議員ら16人が兵役法改正案として発議している。BTSなど文化振興に寄与した大衆文化芸術人も代替服務が可能にすべきという内容で、彼は「卓越した競争力で韓流ブームを全世界に起こし、国威を宣揚する大衆文化芸術人を芸術・体育の領域から排除することは、制度の公平性を毀損すること」と主張した。
そんな“兵役免除”を求める声は、今年9月、BTSが文在寅大統領に任命されて「未来世代と文化のための大統領特別使節」の資格で国連演説を行ったことで、さらに高まった。
10月21日、文化体育観光委員会の国政監査の場では、「大衆文化芸術人の兵役延期と特例についてどう考えるか」というイ・サンホン議員からの質問に、文化体育観光部ファン・ヒ長官が「公平性に反しないよう、積極的に検討を始める」と答える場面があった。
イ・サンホン議員は「先月の国連総会で、外交使節団の役割まで果たしたBTSは国威宣揚という側面では、(スポーツの)代表選手たちと大きく変わらないと思う。支援できないどころか差別してはいけない。公平性に欠けるのに黙っているのか」と質疑した。
ファン長官は「国家の地位を高めた人を対象にインセンティブを与える制度なのに、今まで昔の基準が適用されているのは事実だ」としつつも、「分野が広がり、公平性に関する議論が起こっているが、政府が決断を下せない状況にある」と答えている。
このやり取りからわかるように、K-POPアイドルなど大衆文化芸術人には、スポーツ選手がオリンピックで金メダルを獲得するといったような、多くの人を納得させる“客観的な基準”がない。だから「政府が決断を下せない状況」となっており、今後はその基準をどう定めるかが論点となりそうだ。
ここまでBTSの兵役に関する最近の議論を見てきたが、驚くことに、これらの議論には当事者であるBTSメンバーの意思はまったく反映されていない。なんとかBTSを“兵役免除”にしようと周囲が動いているような状態だが、そもそもBTSメンバーはそれを望んでいるのだろうか。
メンバーのなかで最も兵役が喫緊になっている最年長のJINは、2020年11月に行われたアルバム『BE』の記者懇談会で、「韓国の青年として兵役は当然の義務だと思う。何度か申し上げた通り、国が呼べばいつでも応じる予定だ」と話したことがある。また「メンバーたちともよく話す。兵役には皆が応じる予定」とも付け加えた。
また今年4月にBTSが2022年に同伴入隊(何人かのメンバーが一緒に入隊すること)するとの予想が出ると、所属事務所側は「兵役に関してはアーティスト本人が明かしたこと以外、弊社で申し上げることはない」と伝えた。
さらに6月、文化体育観光部ファン・ヒ長官がニュース番組に出演し、「まだBTSが推薦申請書を提出してはいないが、申請されれば、当然延期する方向で推進していく」と発言したことがある。今年6月の段階でBTS側は入隊延期の申請をしておらず、その後に申請したというニュースが出たこともない。つまり、可能性は非常に低いと思われるが、満30歳まで入隊を延期しないことすらもありえるわけだ。
「兵役には皆が応じる」というJINの言葉を置き去りにしたまま、彼らに関係する兵役の論争が日増しに激しくなっている現状には、違和感を覚える人も多いのではないだろうか。
最後に、韓国の人々がBTSの兵役免除についてどう考えているのかを見てみよう。韓国の世論調査会社4社(EMBRAIN PUBLIC、Kstatリサーチ、コリアリサーチ、韓国リサーチ)が2020年10月11日に発表したアンケート調査だ。
それによると、BTSを大衆文化芸術分野として初めて兵役特例対象に「含めるべきだ」という意見は46%だった。一方で、BTSを兵役特例対象に含めることは「公定性と公平性に沿わないため反対だ」という意見は48%だった。
見事に五分五分という結果となっており、だからこそ論争が尽きないテーマともいえるかもしれない。
はたしてBTSの“兵役免除”を目指しているような現在の論争は、どのような結末を迎えるだろうか。どんな結果になろうとも、メンバー本人たちの意思が尊重されることを願うばかりだ。
(文=呉 承鎬)
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