韓国開催のE-1選手権で日本代表が2大会連続3度目の優勝を果たした。今大会は初招集12人含む“オール国内組”とフレッシュな顔ぶれだったが、近年の森保ジャパンを通して日本サッカー全体の“システム”を高く評価する人物が韓国にいる。
かつて日本でプロデビューし、J1リーグの舞台で通算11年のキャリアを築いた元韓国代表DFファン・ソッコだ。
「欧州に挑戦する選手が多いのですから、今の日本代表が上手くやっているのは当然でしょう。僕が10年以上前から見てきて感じるのは、日本サッカーが海外進出の機会を作るシステムを上手く構築している点です。
日本のチームは若手を早い時期から海外に送り出して、良い選手を育てていく。例えそこで失敗したとしても、またチームに受け入れて良い選手へと成長させようとする。こうしたシステムがすごく良いなと感じました。もちろん韓国もそうしていますが、日本の方がより上手くできていると思います」
現在36歳のファン・ソッコは2012年、森保一監督が率いたサンフレッチェ広島でプロデビューし、J1リーグ連覇とゼロックススーパーカップ連覇を経験した。その後も日本では鹿島アントラーズ、清水エスパルス、サガン鳥栖と渡り歩き、J1リーグ通算成績は240試合出場11ゴールに達する。
そして、昨季に蔚山(ウルサン)HD FC移籍を通じて母国Kリーグの舞台に初挑戦し、今夏に2部の水原三星(スウォン・サムスン)ブルーウィングスへ加入した。過去にACL出場歴のある名門クラブの1部復帰へ奮闘するなかでも、慣れ親しんだJリーグのことは今も興味深く追っているという。
「最近のJリーグはスタイルが大きく変わりましたよね。その代表的なチームとして町田や鹿島、京都などがありますし、岡山もフィジカルのある選手が“ウダンタンタン(韓国語で“ドタドタ”の意味)”と勢いよくプレーして得点が生まれる場面が多いと思います。以前のようにパスをしっかり繋ぐというよりは、縦に早い展開、ダイレクトプレーが多くなっていて、やはりサッカーのスタイルというのは移り変わるものだな、と韓国からも感じています」
選手生活の大半を日本で過ごしたことから、蔚山でも水原三星でもチームメイトからJリーグに関する質問も多く受けるという。
「当然Jリーグの話はしますし、“良かった”と伝えています。チームメイトたちは環境面やサッカーのスタイル、練習方法などがとても気になっていて、“環境も良いし、サッカーもすごく面白くて、あらゆる面で良い思い出だった”と話しています」
“元Jリーガー”としてKリーグを戦いながら、「韓国の選手が技術的にもフィジカル的にも(日本の選手に)劣っているとは思いません。韓国の選手はもっとたくさん海外に挑戦しても、上手くやれると思っています」と自国選手のポテンシャルにも目を見張る。そこで「Jリーグに挑戦したい韓国人選手の後輩へ助言をするなら」と質問すると、ファン・ソッコは真っすぐとした眼差しでこう話した。
「練習中や試合中の集中力、メンタル的な部分で本人たちがもっと危機意識を持って取り組む必要があると思います。監督が練習や試合で何を求めているのかを気付き、積極的に取り組むこと。技術はあるので、それ以外の部分で成長しなければなりません」
また、言語力も「当然必要でしょう」と断言する。「その国に行くのであれば現地の言葉を話せなければならないですし、そうすることで早くから良い関係性を築くことができます。チームメイトと一緒に出掛けたり、食事したり、たまにはお酒を飲んだり。そこで仲を深めるためには、やはりその国の言葉を習得する必要があります」と、重要性を強く訴えた。
インタビュー終盤に今季のJ1リーグ優勝予想を聞くと、ファン・ソッコは「わかりません」と笑顔で即答した。
「毎年のように優勝チームが変わりますし、以前のようにチーム間の格差もありません。戦術や戦略をいかに上手く組み立てて戦うかが結果を大きく左右するので、予想するのは難しいですね。今は柏レイソルが首位ですが、シーズン後半戦も優勝争いを注目していきたいです」
ちなみに、今回のE-1選手権で日本代表デビューしたFW垣田裕暉(柏レイソル)やMF久保藤次郎(柏レイソル)、FW宮代大聖(ヴィッセル神戸)とは元チームメイト。日本で彼らの成長を傍で見守ってきたからこそ、自国の地でかつての仲間が活躍する姿には感慨深い思いがあったはずだ。
母国Kリーグで現役生活を続ける今も、ファン・ソッコはJリーグ、そして日本サッカーを静かに見つめている。
(取材・文=姜亨起/ピッチコミュニケーションズ)
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