公権力にも“カルト宗教”の影響力?告発ドキュメンタリーが“わいせつ物”扱いされる韓国の闇

2024年08月24日 話題

2023年3月、Netflixドキュメンタリー『すべては神のために:裏切られた信仰』が韓国社会に小さくない波紋をもたらした。

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全8話で4つのカルト宗教(摂理、五大洋、アガドンサン、万民中央教会)に迫った本作だが、特に、キリスト教福音宣教会(通称:摂理、韓国ではJMS)のチョン・ミョンソク総裁の性犯罪は目を背けてしまうほど凄惨だった。

摂理編は、刑事告訴とともにチョン・ミョンソクの性暴力を暴露する記者会見を開いた香港国籍の被害者メープルのインタビューから始まる。

生々しい尾行の様子も

チョン・ミョンソク
(写真=Netflix)チョン・ミョンソク

チョン・ミョンソクは2008年に女性信徒への性的暴行容疑で懲役10年の実刑を受け、2018年に出所。出所後も同様の犯罪を繰り返すという推測は多かったが、メープルの記者会見は推測が間違っていなかったことが明らかになった初めての証言だった。

メープルはチョン・ミョンソクを告訴すると決心したあと、摂理から継続して脅迫を受けてきたという。告訴と記者会見のために香港から韓国に入国する際、彼女を尾行していると思われる車両が確認された。

発見した番組スタッフが停まっていた車に近づき、窓を叩いて身元を尋ねたが、車中の人々はカメラを避けて何の反応もしなかった。この様子は作品本編にも含まれている。

メープル
(写真=Netflix)摂理からの被害を訴えた元信徒・メープル

そして配信開始から約1年半が経った今、本作は大きな危機に直面している。演出したチョ・ソンヒョンPD(プロデューサー)が、わいせつ物容疑で送検されたためだ。

政府も表彰した作品が“わいせつ物”?

8月16日、ソウル麻浦(マポ)警察署はチョPDを性暴行処罰法違反疑惑でソウル西部地検に送検した。彼に適用された容疑は、「性暴力防止特別法14条2項、3項(カメラなどを利用した撮影)」だという。

その後、チョPDは20日に声明文を発表。「麻浦警察署が起訴意見送致を通じて、『すべては神のために』による公益は微小で、顔と音声を変造して送り出した場面を指し、摂理の熱心な信徒たちの私益がさらに大きいと比較している」とし、「摂理事件にスポットライトを当てた私は性犯罪者で、『すべては神のために』にはわいせつ物と烙印を押した」と吐露した。

すべては神のために:裏切られた信仰
(画像提供=Netflix)『すべては神のために:裏切られた信仰』

続いて、「この主張通りならば、政府がわいせつ物に大統領賞を表彰し、韓国検察と裁判所がわいせつ物を証拠として活用し、公開を許可したという意味」と声を高めた。

公開当初、本作の扇情性を問う議論がなかったわけではない。チョン・ミョンソクの過去の性犯罪疑惑を扱う場面では、被害者の裸体を見せたことで問題視されたこともある。

そのほかにも、“青少年観覧不可判定”を受けたことから、地上波番組では到底放送できないようなシーンが多く含まれた。そのなかの一つが、チョン・ミョンソクの「性倒錯症」を暴露する過程で、女性信徒たちが「神様、疲れていますよね?」「私たちと半身浴します」としてカメラを眺める場面だ。被害者を性対象化したという指摘が提起された。

悲惨さを伝えるために“あえて”

チョ・ソンヒョンPD
(画像=Netflix)チョ・ソンヒョンPD

これに関してチョPDは当時、「不快かもしれないが、事実をそのまま見せるのが正しいと思った」と強調し、「ドキュメンタリーに含まれた事実は、実際の10分の1にも満たないレベル。私たちのチームも撮影に行って一週間寝込んだりもしたほどなので、見苦しい方々もいると思う」と理解を求めた。

だが、あくまで公益的目的に該当すると言えるだろう。特に、カルト宗教の性搾取を受けた女性が多いことから、再現VTRや言葉で説明するよりも、ありのままを見せて事件の実体を明確に示すことで、誤解を減らすことができるという判断からだった。

これは違法性の阻却事由と判断するのが正しい。すなわち、形式上は犯罪または不法行為の条件を備えているが、実質的には犯罪または違法と認めない理由を意味する。たとえ扇情的な側面があるとしても、あくまでも批評の範囲内で批判を受けなければならないのであって、司法的に拘束される事案ではないということだ。もしも法で処罰されるならば、“言論の自由”を深刻に侵害することとなる。

公権力にも摂理の力が?

『すべては神のために』の公開後、摂理に加担したことを後悔する人も続々と出ている。摂理に30年間所属し、副総裁の座にも就いたキム・ギョンチョン牧師は、韓国メディア『ニューシス』のインタビューで被害者たちに言及。「その方々を守ることができず、むしろ犯罪のどん底に導いた。誘惑する手先の役割をしたことに対して痛烈に反省している」と懺悔したほどだ。

キム・ギョンチョン牧師
(画像=CBS)摂理に30年間所属したキム・ギョンチョン牧師

キム牧師は摂理の初期メンバーで、30年間、広報部長、教育部長、副総裁など幹部として活動してきた。しかし、2009年に脱退して以降は、被害者の証言を伝える活動を行うなど、摂理内部の実状を知らせる人物の一人だった。

そのため、今回のチョPDの事件は話にならない。むしろ、一部では公権力にも摂理が食い込んでいるのではないかという話まで出ている。

検察と警察の“正義の刃”は、市民の生活を脅かすカルト宗教に向けられるべきではないだろうか。

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