ミュージックビデオの制作トレンドが変わりつつある。
2000年代初めは、人気俳優が出演する映画のようなスケールのミュージックビデオが流行した。しかしアイドルグループがK-POP界の主流に位置づけられ、ストーリーテリング型のミュージックビデオよりも、アーティストが直接出演する群舞中心のミュージックビデオが大勢となった。
K-POPが世界的な人気を得たことで、ミュージックビデオは数億~数十億回の再生回数を記録し、また別の収入を創出したりもしている。
そんなミュージックビデオの最近のトレンドは、アルバムに収録された“全曲”のミュージックビデオを制作する「物量攻勢」だ。
BTSメンバーとして最後にソロデビューしたVは、9月8日にリリースした初ソロアルバム『Layover』で、ボーナストラックを除く収録された5曲全曲のミュージックビデオを制作した。
去る8月10・11日に先行公開された収録曲『Love Me Again』と『Rainy Days』のミュージックビデオは公開直後、YouTubeの「人気急上昇音楽」で1位を記録。この制作方式は、“NewJeansの生みの親”ADORミン・ヒジン総括プロデューサーとのコラボの影響と分析される。
先立ってNewJeansも2022年7月22日に発表したデビュー曲『Attention』をはじめ、『Hype Boy』『Cookie』とミュージックビデオを次々と披露した。『Hype Boy』のミュージックビデオは、なんと4つのバージョンで制作された。
その波及力は凄まじかった。韓国最大の音源プラットフォームMelonチャートでは今年、NewJeansの『OMG』『Ditto』『Hype Boy』の3曲が1月から3月まで1~3位を独占するロングランを見せ、彼女たちはデビューから1年もしないうちに「大人気ガールズグループ」となった。
またNewJeansは、8月21日に発売した2ndミニアルバム『Get Up』のトリプルタイトル曲『Super Shy』『ETA』『Cool With You』を含め、収録曲6曲のミュージックビデオをすべて公開して大きな反響を得た。特に『Cool With You』のミュージックビデオには女優チョン・ホヨンと俳優トニー・レオンがサプライズ出演し、映画のようなクオリティで注目を集めた。
アルバムの発売1カ月前から順次ミュージックビデオを公開し、NewJeansに対する関心と熱気が続いた。おかげでNewJeansは韓国音源チャートの“占領”はもちろん、米ビルボードのメインシングルチャート「HOT100」にチャートインする成果も残した。
とある業界関係者は「代表曲よりは、アルバムに収録された全曲のミュージックビデオを制作することでリスナーにアルバム全体の曲を聴かせ、同時に単一アルバムでまるで複数のアルバムを発売したかのような広報効果も得られる」と話した。
ミュージックビデオの主要流通プラットフォームであるYouTubeの視聴層が10代20代だけでなく中高年層に広がり、アイドルだけでなく、ミュージックビデオに力を注ぐアーティストの幅も広がっている。
2020年にシンドロームを起こした曲『テス兄さん!』に続き、昨年の新曲『相棒』でファンタジー武侠ジャンルのミュージックビデオを披露したベテラン歌手ナ・フナは、8月に発売した新譜『夜明け』の収録曲6曲すべてのミュージックビデオを制作した。そのミュージックビデオはYouTube人気急上昇動画に掲載され、若年層からも話題を集めた。
今年でデビュー20周年を迎えた東方神起のユンホも、去る8月に発売した3rdミニアルバム『Reality Show』の収録曲6曲を有機的に連結したストーリーテリング形式のショートフィルムを披露した。
ユンホは「タイトル曲だけが注目され、アルバム全体を大衆に印象付ける時間が足りないようで残念だった。映画とミュージックビデオを合わせたショートフィルムを試みながら、アルバム全体を広報しながらも伝えたいメッセージをよくお聞かせできるのではないかと思った」と説明した。
これまでミュージックビデオは高い費用がかかるが無料で流通されていたため、コストパフォーマンスが悪いという認識が強かった。しかし現在は単なる広報手段を超えて、全世界のファンにグループの世界観とイメージを刻印させる手段として作用している。
とある音楽企画会社の関係者は「全曲ミュージックビデオとまではいかなくても、トラックビデオ形式で多彩なグループの色をストーリーテリング形式で見せようとする試みが増えている」とし、「ただしこれもやはり制作費に上限を設けない大型企画会社なので可能だ」と話した。
実際に莫大な資本を基盤にした一部の大手企画会社への“偏り”が深刻化しているK-POP市場で、“全曲ミュージックビデオ戦略”は「贅沢な話」という視線もある。
ある中小芸能事務所の関係者は「20年前までは1億ウォン(約1000万円)でミュージックビデオを作ったが、今は少なくとも5億ウォン(約5000万円)以上の投資が必要だ。全曲で数十億ウォン(数億円)かかるミュージックビデオの費用に耐えるのは現実的に難しい」と伝えた。
そして「特に新人グループがその費用をアルバム販売で回収するのは不可能に近い。むしろそのお金を良質な音楽を作るために使うほうがより現実的な代案」とし、企画会社間の格差を拡大させると指摘した。
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