「私をぎゅっと抱きしめて。ああ、〇〇が大きい。私は50回〇〇したな」(カルト宗教「JMS」チョン・ミョンソク教祖の性的暴行発言の録音から一部抜粋)
去る3月3日に公開されたNetflixドキュメンタリー『すべては神のために:裏切られた信仰』が波紋を呼んでいる。
オープニングから耳を疑うような衝撃的な録音が公開される本作は、自らを“予言者”と名乗った4人の韓国人指導者の戦慄の真実を映し出し、盲目的な信仰の闇を暴くドキュメンタリーシリーズ。3日の配信開始以降、ドキュメンタリー作品としては異例の話題を集め、社会に衝撃を与えた。
製作陣は冒頭、「性被害者メープルは自分が受けた被害が他の女性たちに繰り返されないことを願い、次の録音内容を具体的に公開することに同意しました。2022年9月現在、JMSチョン・ミョンソクは2人の間に性的関係があったことを否定しています」と明らかにした。
本作は、JMS(キリスト教福音宣教会)のチョン・ミョンソク、五大洋事件を起こしたパク・スンジャ、アガドンサン事件のキム・ギスン、万民中央教会のイ・ジェロクと、1980年代から2023年現在まで韓国社会に大きな波紋を起こした“カルト宗教”を取り扱っている。
テロも躊躇しない狂信者が依然として存在する状況で、危険を冒して直接出演した被害者と追跡者の生々しい声が盛り込まれ、恐ろしい破壊力を発揮しているのだ。
これらの事件は過去、韓国メディアを通じて報道される度に信者からの激しい反発があった。SBSのドキュメンタリー『それが知りたい』が2001年に放送を準備していたアガドンサン編は当時、裁判所が放送禁止仮処分申請を受け入れ、放送当日に他の番組に代替されたほどだ。『すべては神のために』も例にもれず、同様の受難に直面した。
JMSとチョン・ミョンソクは配信開始前の今年2月、『すべては神のために』のストリーミングを阻んでほしいと、製作会社のMBCとNetflixを相手に放送禁止仮処分を申請していた。
しかし、申請されたソウル西部地方裁判所は「MBCとNetflixは相当量の客観/主観的資料を収集し、これを根拠に番組を構成したものと見られる」とし、「番組の中でのJMSに関する内容が、真実ではないと断定するのは難しい」とJMSの申請を棄却した。
なおカルト宗教を扱った韓国作品は今回が初めてではない。
昨年、同じくNetflixで公開されたドラマ『ナルコの神』で俳優ファン・ジョンミンが演じたチョン・ヨハン牧師も、海外で麻薬を流通させた教団の牧師がモデルとなっていた。
しかし、実在の人物を基に虚構の世界を描いたことと、実際の事件をドキュメンタリーとして扱ったことは衝撃度が異なる。
全8話中3話も使ったJMSチョン・ミョンソク編は、“色情狂”としか表現できないほど性的に堕落したカルト教祖の素顔を見せてくれる。
チョン・ミョンソクは美しく、身長の高い女性信者を選び、「神の花嫁」「信仰スター」と称して醜悪な性犯罪を及できた。彼に洗脳された女性たちが、一糸まとわぬ姿で「神様、私たちと一緒に半身浴しましょう」という動画は衝撃そのものだ。
またチョン・ミョンソクの蛮行は国籍も問わず、香港、中国から逃避中の時も現地女性を翻弄していたという。本作で顔を出して出演した香港出身の被害者メープル、オーストラリア出身のエイミーなど、外国人被害者も多い。
JMSに在職していた関係者が「チョン・ミョンソクは1万人の女性と体の関係を持とうとした」と証言するほどだ。
このドキュメンタリーは、1980年代の韓国大学街でJMSが信徒たちを“洗脳”していくさまを漸進的に見せてくれる。チョン・ミョンソクに性的暴行を受けた多数の被害者は、教会に足を踏み入れたあと、チョン・ミョンソクを“メシア”と崇める環境に慣れてしまい、結局は性的に搾取されてしまった。
結局、チョン・ミョンソクは2009年に懲役10年の刑を言い渡されたが、彼の性に対する執着は刑務所の中でも続いた。
投獄中、“きわどい”写真などを要求された女性信者は、出所後にはチョン・ミョンソクの新たな獲物に。収監施設でさえ「無銭有罪 有銭無罪」(金持ちは罪がなく、貧乏人は罪があるという意味の言葉)が適用されたような後味の悪さを残した。◇ジャーナリズム際立つ告発精神…扇情的な見せかけの報道は残念だ
本作はMBCドキュメンタリー番組『PD手帳』を演出したチョ・ソンヒョンPD(プロデューサー)が2年余りにわたって追跡取材および演出したものだ。
チョPDは本作が公開されたあと、ある宗教カフェに残した文で「初めてこのドキュメンタリーを始める時は、製作にこのような長い時間をかけることになるとは思わなかった」とし、「当然だろうが、撮影しながら尾行や脅迫、ハッキングに遭うとは思わなかった」と書いたことから、どれほど危険だったかがうかがえる。
世の中に公開するまで多くの困難を経験しただろうが、やや物足りなさは残る。女性の“あられもない”姿を繰り返して見せるシーンは過度に扇情的ではないだろうか。性犯罪を過度に細かく表現している点は2次加害だという声も少なくない。
またJMS編の衝撃の余波があまりにも大きいため、4話から五大洋、アガドンサン、万民中央教会の疑惑がまともに明かされなった部分もある。このようなカルト宗教がなぜ韓国で横行するのか、海外事例との比較データも足りない。
とはいえ、これまで大きな注目を集めたことのなかった韓国ドキュメンタリーの力を見せつけたジャーナリズム作品という面で評価は高い。さらに、JMS脱会者の会を率いた檀国(タングク)大学キム・ドヒョン教授などの献身などに注目した点も、肯定的に評価されている。
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