「顔色を伺うのが日常なので…」
2007年に韓国でプロデビューし、2008年の北京五輪では優勝したこともある投手キム・グァンヒョン(34、SSGランダース)。15年にわたって代表に貢献してきた彼は、今年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に最年長投手として参加し、韓国野球の復活という責任と使命を背負って代表生活の有終の美を飾る予定だった。
だが、その責任感はプレッシャーに繋がったようだ。大会を控え、日本代表はダルビッシュ有(36、サンディエゴ・パドレス)が中心となり会食を行い、一丸となるきっかけを作った。当時、そのニュースをキム・グァンヒョンに伝えると、返事をためらっていた。
重要な初戦のオーストラリア戦(3月9日)前日、東京ドームでの練習時にキム・グァンヒョンは「(日本は)会食をしましたか?」と記者に問い返し、「我々は良い成績を出してこそ会食ができそうだ。大会前にやると言葉が出るかもしれない。いつも慎重だ。顔色を伺うことが日常だ」と周囲の視線を意識するような発言をしていた。
それはまるで、“韓国野球の復活”という目標ただ一点を見つめて走る競走馬のような意志にも感じられた。
ところが、時間が経つにつれ、責任感と使命感が本気だったのか疑わざるを得ない状況になってしまったのだ。
5月30日、とある韓国メディアがYouTubeチャンネル『SAY ENTER』の投稿動画を基に追加取材し、韓国代表の数名がWBC期間に赤坂の高級ルームサロンに出入りしていた事実があったと報じた。
高級ルームサロンに出入りしていたのは「各球団で先発エースやリリーフエースとして活躍するトップクラスの投手3人」とされ、「一部選手は3月8日夜から翌日未明まで酒を飲み、10日夜も翌日未明まで酒を飲んだ。別の選手も、同じルームサロンで9日夜から翌日未明まで酒を飲んでいた」と伝えられた。
もちろん、疑惑を最初に提起したユーチューブ映像が全て真実なのかは確認できず、真偽の把握が優先だった。
しかし、彼らが大会期間中に赤坂で飲酒をしていたという事実は確認され、KBO(韓国野球委員会)はこの報道後、代表選手たちに経緯書と事実確認書の提出を要請した。
KBOは「3人を除く選手たちは大会の公式期間、3月13日の中国戦前まで遊興施設に出入りしたことはないと、事実確認書を通じて明らかにした」とし、「3人の選手は大会期間中、試合がある前夜、スナックバーに出入りした事実がない」と伝えた。
ただ、大会前の強化試合が行われた大阪から東京に移動した日(3月7日)と、休みの前日(10日)に当該店舗に出入りした事実があることを明らかにした」とも明かしていた。
結局、この3人はキム・グァンヒョン、チョン・チョルウォン(24、斗山ベアーズ)、イ・ヨンチャン(34、NCダイノス)だったことが、KBOの発表前に公開謝罪で判明。キム・グァンヒョンは7日夜に知人と、そして日韓戦で先発登板した直後の10日夜にチョン・チョルウォンとスナックバーで飲酒した事実が確認されている。
問題は飲み会が何時間行われ、どれほど飲んだのかではない。表向きはベテランとして殊勝な発言をしていたにも関わらず、隠れて行動をしていたということ自体がファンの怒りを買っているのだ。
KBOによる発表が行われないなか、キム・グァンヒョンは自ら謝罪に踏み切った。
6月1日のサムスン・ライオンズ戦前、記者の前に姿をあらわし「WBC大会期間中の不味い行動により、謝罪の言葉を申し上げようとメディアの皆様、ファンの方々の前に立つことになりました」とし、「理由を問わず、国家代表大会期間中に考えもなく行動したという点について、野球を愛するすべてのファンの方々、メディアおよび野球界の先輩後輩の方々に、心から申し訳ないとお詫び申し上げます。チームのベテランとして考えが足らず、自らをコントロールできなかったことを後悔しています」と話した。
続いて「引き続きKBOの調査に誠実に臨み、結果を謙虚に受け止めます。今回のことをきっかけに深く反省し、野球を愛してくださる皆様を二度と失望させないようにします」とし、「もう一度、私の不味い行動によって大きな失望を抱かせた点について、野球が好きで愛してくださるファンの方々やメディアの方々、そして野球関係者の方々に心よりお詫び申し上げます」と頭を下げた。
韓国は今大会、1次ラウンド敗退という憂き目にあった。スポーツでは結果が伴わないこともあるだろう。韓国野球の実力が足らなかったことを確認したならば、再び育成に力を注げばいいことだ。
しかし、今回のWBCで韓国野球はあまりにも多くのものを失った。最古参投手はファンを欺き、度々口にしていた太極マーク(韓国国旗)の使命感、責任感が本気だったのか疑わざるを得ない。今回の件を機に、代表選手に対する“疑心”は国際大会の度に繰り返されるだろう。
(記事提供=OSEN)
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