そのキャラクターの土台となっているのは、原作や日本コミカライズ版では謎の男として登場した“ユ兵長”。ユ兵長は、平々凡々な主人公がお決まりの死後を過ごす一方で、壮絶な末路によって正常に死を迎えることができなかった対照的な存在として、原作では描かれていた。主人公とは序盤にすれ違うだけで、その後はほとんど関わることのない人物だった。
ところが映画ではこのユ兵長の役割をスホンが果たすだけではなく、スホンは原作にはなかった存在感も発揮する。
自由奔放でトラブルメーカーである反面、実は面倒見の良い性格で、兵役中には落ちこぼれの後輩を支えるなど、兄ジャホンに劣らず優しいスホンが“もうひとつの物語”を紡いでゆくのだ。
漫画作品の場合、主人公を取り巻く物語の傍らで他のキャラクターが異なるドラマを繰り広げることは珍しくない。ただ、映画という2時間前後のタイムラインの中で異なる時間軸のドラマをいくつか展開すると、それがかえって混乱や散漫を招き、足かせになってしまうこともある。
映画『神と共に』は主人公と無関係でありながら重要な役割を果たす“ユ兵長”を“たった一人の弟キム・スホン”に改変することによって、登場人物一人ひとりが抱えるドラマをより濃密にすることに成功。原作にはなかった“家族の絆”を作り出しているのだ。
“家族愛”の描写は韓国映画界でもはや常識となっており、共感や涙を誘うことから観客からも支持を得やすい。考え抜かれたオリジナル設定の数々は韓国映画ならではの強みとなって作品をリードし、単なるアクションファンタジーに尽きないドラマチックな展開を実現したわけだ。
ちなみに、劇中では兄と弟で母に対する呼称も分けられている。兄キム・ジャホンの“オモニ”(日本語でお母さん)に対して、弟キム・スホンは母をオンマ(オモニよりも幼い呼び方。日本語でいうところの“ママ”に近い)と呼んでおり、こういった細かい演出も家族間のドラマを感じさせる。
原作ファンも唸らせる斬新なアレンジと工夫の数々で、大きな反響を呼んだ『神と共に 第一章:罪と罰』。6月28日に公開される続編の『神と共に 第二章:因と縁』では主人公を導いた冥界の使者たちのバックグラウンドについても触れており、日本でも“愛されマッチョ俳優”として知られる俳優マ・ドンソクがメインキャラクターとして活躍する。
作品の世界観に一層のめり込める続編となっているだけに、ぜひ第一章の熱が冷めないうちに劇場に足を運んでほしい。
(文=姜 由奈)