“横浜の悲劇”を味わった蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)にとって、唯一の収穫は元スウェーデン代表MFダリヤン・ボヤニッチ(29)の躍動だった。
ボヤニッチは4月24日、横浜国際総合競技場で行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝第2戦の横浜F・マリノス戦で、0-3とで大幅リードを許した前半34分にMFイ・ギュソン(29)との交代でピッチに投入された。
ホーム第1戦で1-0と先勝し横浜の地に乗り込んだ蔚山は、開始30分でまさかの3失点。その後もピンチ続出で早くも敗戦の色が濃くなるなか、異例ともいえる前半途中の選手交代が戦況を大きくひっくり返した。
まず、ボヤニッチ投入から1分後のコーナーキックで、ブラジル人MFマテウス(28)がヘディングで1点を返す。
そして前半40分、中盤で持ち上がったボヤニッチのスルーパスでFWオム・ウォンサン(25)が抜け出すと、ペナルティエリア内で切り返した際に相手DF上島拓巳(27)がハンドの反則を犯しPK獲得。
上島は一発レッドで退場となり、PKはボヤニッチが冷静に沈め、2戦合計スコアをイーブンに戻す貴重な得点をマークした。
以降、蔚山は後半45分と延長前後半30分で10人の横浜FM相手に猛攻を浴びせ続けた。
そこで、ボヤニッチは相手のカウンターを上手く制御し、蔚山の攻撃時には起点となる役割を果たした。巧みなボールコントロールはもちろん、味方への正確なパスも際立っていた。
データサイト『FotMob』によると、ボヤニッチは86分間のプレーで131回のボールタッチ、パス成功率91%(105回中96回成功)、ロングパス成功率94%(16回中15回成功)と高い数字を記録した。
守備でもタックルを2回とも成功し、ボールリカバリーが8回に達するなど、まさに攻守で“獅子奮迅”の活躍を見せた。
しかし、ボヤニッチの奮闘も虚しくチームは決定力不足に苦しんだ。数的優位という大きなアドバンテージがありながら、90分間はもちろん延長戦まで含め120分間で勝負を決められなかった。
そして最後、PK戦5人目でMFキム・ミヌ(34)が失敗。横浜FMの5人目を務めたDFエドゥアルド(31)のキックが成功した瞬間、蔚山のACL決勝進出の望みは水の泡となった。
ボヤニッチは試合修了直後、ピッチ上で目頭を熱くしていた。蔚山の関係者によると、彼はピッチを去る際に涙を流していたという。
悔しい敗戦ではあるが、ボヤニッチ自身にとって今回の試合は蔚山生活の“転換点”となるはずだ。
そもそも、これまでエステルス、ヨーデボリ、ヘルシンボリ、エステルスンド、ハンマルビーと自国のみでプレーを続けていたボヤニッチは、昨年の蔚山加入で自身初の海外挑戦に乗り出した。
しかし、韓国1年目の2023年シーズンは、期待したほどの出場機会を得られなかった。
ボランチを本職とするボヤニッチだが、チーム内の同ポジションでは3~4番手の立ち位置だった。全体的にコンタクトの激しいKリーグのスタイルに馴染めていないという評価が強く、昨季のリーグ戦成績は9試合1アシスト。
今年2~3月のACL準々決勝と準決勝の4試合はすべてベンチで出場機会がなく、リーグ戦も現時点まで3試合しかプレーしていなかった。
蔚山加入前のハンマルビーでキャプテンを務めるなど、元々リーダーシップの強い選手で知られたボヤニッチ。過去にはスウェーデンA代表に選ばれた経歴もあるだけに、蔚山での苦境にはプライドが傷つくこともあった。
しかし、母国で培ったリーダーの経験が、彼をより強くした。出場時間こそ少なかったものの仲間を配慮する姿勢を見せ、常にフレンドリーに周囲と意思疎通を図った。自然と、チームメイトたちもボヤニッチを活躍させようとサポートするようになった。
こうして少しずつ蔚山のサッカーにフィットしたボヤニッチは、ホン・ミョンボ監督の厚い信頼も得た。
そして、横浜FM戦で訪れた最悪の局面で“勝負の一手”として投入され、蔚山の選手で誰よりも輝くプレーをピッチ上で見せた。
ボヤニッチが横浜の地で流した熱い涙は、彼の韓国2年目での新たな飛躍につながるはずだ。
(構成=ピッチコミュニケーションズ)
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