開幕が迫るWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。侍ジャパンは自国の東京ドームで1次ラウンドを戦うが、注目の一戦と言えばやはり大会2日目(3月10日)に行われる“日韓戦”だろう。
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WBCでは特に因縁深い戦いを繰り広げてきた日本と韓国。そのなかで、特に印象的な試合の一つに挙げられるのが、2006年の第1回大会で韓国代表選手による“マウンド国旗立て”が行われた一戦だ。
それが起きたのは2006年3月15日、米エンゼル・スタジアムで行われた2次ラウンドの韓国対日本。
試合は熾烈な投手戦の末に韓国が2-1で勝利したのだが、終了直後、韓国の投手ソ・ジェウンがマウンドに太極旗(テグッキ/韓国国旗)を挿した姿が大きく話題になった。
当時25歳だったソ・ジェウンは日本戦で登板機会がなかった。だが、試合が終わるやいなやグラウンド上の仲間のもとに駆け付け、勝利の喜びを分かち合った。
すると、チームメイトがグラウンドを後にするなかマウンドに一人残り、丁寧に土を掘って太極旗を突き立て、最後は嬉しそうに旗にキスをしたのだ。
そして、この様子をダッグアウトで見つめていたイチロー。試合後には「野球人生で最も屈辱的な日」と、報道陣に隠し切れない憤りを伝えた。
ただ、当のソ・ジェウン自身は日本の反応を気にしていなかった。彼は自身の“国旗立て”についてこう語っている。
「日本の選手の気持ちまで考えていなかった。その日は自分たちが祝う意味で太極旗を掲げたもので、日本の反応は気にしない。自分も最善を尽くしたし、日本も最善を尽くした。どのチームが勝っても、勝者は祝賀パーティをして、敗者は頭を下げて出ていくだろう」
もっとも、最後に笑ったのは日本だった。両国はその後、準決勝で再戦し、そこでは日本が6-0で完勝。韓国は“国旗立て”をした張本人のソ・ジェウンが先発で好投するも、後続が続かず敗れた。
結局、決勝でキューバを破った日本が見事初代王者に輝いた。
なお、ソ・ジェウンはその後2015年限りで現役を引退。以降は解説者やアマチュア球団の投手コーチを経て2018年にKIAタイガースの1軍ブルペンコーチに就任し、2023年からは残留軍(リハビリを行う選手を中心に構成)の投手コーチを務めることが決まっている。
また、その間には自身の象徴ともなった“国旗立て”をめぐって、ソ・ジェウンが何度か話題に挙げられている。
例えば2012年には、妻のイ・ジュヒョンさんがテレビ番組に出演した際、「“太極旗セレモニー”の後、夫がラーメンのCMに出たがっていた」というエピソードを告白した。
その内容とは、「夫が普段からラーメンが大好きで、“マウンドに挿した太極旗の熱気のように、ラーメンの熱気も上手く表現できると思う”と言って、(オファーが来ることを)内心たくさん期待をしていた」というもの。実際はオファーが一つも来なかったため、「今も文句を言っている」という。
さらに、36歳で迎えた2013年WBCを控えては、「太極旗を挿すのは伝統ではないだろうか。私がやるかもしれないが、後輩の誰かがやるだろう」と2006年大会の再現を宣言。代表メンバー正式発表直後も、「優勝して気分良くマウンドに太極旗を挿したい」と語っていた。
しかし、韓国はまさかの1次ラウンド敗退。ソ・ジェウン自身もこれといった活躍はなく、太極旗を挿す夢は叶わなかった。
今回、WBCでは実に14年ぶりに繰り広げられる因縁の“日韓戦”。かつての“マウンド国旗立て”の再現はなくとも、ソ・ジェウンは後輩たちが日本に勝つことを願っているはずだ。
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