「Jリーグだけがプロの道ではない」東欧から韓国、そしてACLへ。Kリーグを戦う鈴木圭太に迫る【一問一答】

本日(8月18日)から浦和駒場スタジアム、埼玉スタジアム2002の2カ所で行われるアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の決勝トーナメント。

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日本勢では横浜F・マリノスとヴィッセル神戸が激突し、浦和レッズがマレーシアのジョホール・ダルル・タクジムと対戦するなか、韓国勢は全北現代(チョンブク・ヒョンデ)モータースと大邱(テグ)FCが同国対決を繰り広げる。

その大邱FCには、プロキャリアで一度もJリーグでプレーしたことのない日本人選手がいる。名前は鈴木圭太。かつて浦和レッズ一筋で16年間活躍した元日本代表の鈴木啓太氏とは同姓同名の24歳だ。

1997年12月20日生まれの鈴木は、大阪府の桃山学院高校を卒業後にモンテネグロへ留学し、2016年にトライアウトを通じて同国2部のFKイバルでプロデビュー。モンテネグロではFKベラネ、FKポドゴリツァでもプレーし、ポドゴリツァ在籍時の昨年7月にはUEFAヨーロッパカンファレンスリーグ(UECL)の予選1回戦にも出場した。

そうしたステップアップを重ね、今シーズンからKリーグ1(1部)の大邱FCでプレーしているわけだが、なぜ鈴木は新天地に韓国を選んだのか。

そこで今回、大邱FCのクラブハウスで行った単独インタビューで、渡韓以前に抱いた韓国サッカーの印象や実際のKリーグの環境、ACLグループステージで対戦した浦和の印象などについて話を聞いた。ここでは一問一答形式でその内容をお送りする。

(写真=姜亨起/ピッチコミュニケーションズ)鈴木圭太。大邱FCクラブハウスの練習場で撮影

「アジアで自分がどの立ち位置にいるかを知りたかった」

―長年プレーしたモンテネグロを離れ、今シーズンから大邱FCに移籍した経緯を教えてください。

「留学の形でモンテネグロに渡って、2部からプロ生活をスタートして1部にステップアップし、UECLという欧州の国際大会にも出ることができました。そこで、自分としても移籍したいなと思ったタイミングでFKアドリア代表の大迫貴史さんが韓国現地の韓国人エージェントとつながってくれて、大邱FCからオファーをいただきました。大邱FCがACLに出場できるチャンスがあることや、アジアの舞台で自分がどれぐらいの立ち位置にいるのかを知りたかったこともあって、自分のなかでは挑戦、チャレンジという意味で来させていただきました。大邱FCが本当に魅力的で素晴らしいチームだと感じたので、すぐに“行きたい”ということは伝えました」

―欧州の別のクラブに移籍するなど、Kリーグ以外の選択肢はあったのでしょうか。

「選択肢はありましたが、大邱FCと接触してスムーズに具体的なところまで話が進みましたし、僕自身も大邱FCに一番魅力を感じたので、すぐに決めたって感じですね。ポドゴリツァでのシーズン終盤に話をいただいて、昨年12月中旬の時点には移籍が決まっていました」

―大邱FCに加入する以前に抱いていたKリーグの印象はありましたか。

「僕は小さい頃からサッカーをたくさん見ていたのですが、ACLで韓国のチームが活躍するのも見ていて。韓国勢もJリーグのチームに劣らないというか、自分のなかでは同じランクという風に見ていました。なので、今回の大邱FC移籍も簡単な挑戦ではないと思って決断しました。抱いていたイメージとしては、フィジカル面はそうですし、人間性の部分でも日本人と韓国人で国民性が違うので、メンタル的にもタフな戦いになるリーグなのかなと思っていました。

サッカーが激しいイメージはありました。ただ、Kリーグの方が日本よりも球際の激しさやフィジカル面ではレベルが高いと思っていましたし、僕自身、欧州でやっていたので、自分が今まで培ってきたものがどれだけ通用するのかを知りたくて、こうして挑戦させていただきました。

なので、Kリーグに対してネガティブなイメージはまったくなくて。どちらかというと、自分のプレースタイル的にも泥臭く戦うことが好きなので、Kリーグへの抵抗はなかったですし、むしろ自分に合っているのかなとも思っていましたね。この舞台に挑戦して、上手く活躍できればJリーグとかに進めるチャンスがあると思っていますし、自分のなかで(Kリーグに対する)ネガティブな印象はなかったですね」

(写真提供=大邱FC)鈴木圭太(右)

―では、自身が加入した大邱FCに対しては、どのような部分に魅力を感じたのでしょうか。

「僕が話をいただいた時点でACLプレーオフ出場が決まっていたのですが、ACLは自分が出たいと思っても出られない大会ですし、そこでやはり(ACLに)出場したい思いがありました。それに、大邱FCが2002年創設と比較的新しいチームで、サポーターもすごく熱いというのを聞いていたので、そんな環境でサッカーができるという部分に魅力を感じましたね」

―サッカーのスタイルの部分で、魅力に感じた部分はあったでしょうか。

「スタイルの部分だと、大邱FCがカウンターサッカーだというのは来る前からたくさん言われていました。今年から監督が交代してスタイルも変わっていると思いますが、僕自身はただ戦うスタイルですし、チームがどんなサッカーでも適用できるスタイルだと思っているので、スタイルに関してはあまり気にしていませんでした」

―実際に大邱FCに合流して、チームに対して最初に抱いた印象は何かありますか。

「最初はサッカーと関係なく、日本人と韓国人の関係性的に少し距離を取られるのかなと思っていたのですが、まったくそんなことはなく、むしろ皆が温かく受け入れてくれたことに驚いたのが第一印象ですね。初めて韓国に来てわからない部分もあったので、そこはメンタル的にもとても助かりました」

―鈴木選手が加入する以前の大邱FCには、2018~2021年まで4年間在籍し、2018年のFAカップ優勝や2度のACL出場を経験した西翼選手(現ソウルイーランドFC)がプレーしていました。前年まで西選手が在籍していたことも、鈴木選手が温かく迎えられたことに関係があったのでしょうか。

「そうですね。翼さんが大邱FCで築き上げてきたものがたくさんあるので、僕も受け入れてもらっているのかな、と感じますね。翼さんとは韓国に来てから電話で一度しか話したことがないのですが、“何かあったら何でも教えるよ”、みたいな感じで言ってくれました。そうやって気にかけてくれることがすごくありがたいですね」

―鈴木選手は1月末に大邱FCに合流しましたが、新シーズン開幕(2月19日)まで残り3週間という時点でした。開幕までの少ない期間でどのような部分をアピールしようと思っていましたか。

「元々、僕のプレー映像は見てもらっていたと思うので、とりあえず“自分がどういう選手なのか”というのを少ない時間でアピールすることを考えていました。何よりアグレッシブな部分を見てもらいたかったので、ハードな練習でもそこを意識してアピールするようにはしていました」

―鈴木選手が主戦場とする左ウィングバックのポジションには、現役韓国代表のホン・チョル選手がいます。そのような実力ある選手とポジション争いをするなかで、“ここだけは負けない”という自分だけのアピールポイントはありますか。

「やはりホン・チョル選手は代表経験もあるので、試合中もみんなから頼りにされるような選手だと思います。その点、僕はまだKリーグでの経験が浅いので、献身的なプレーを心掛けました。例えば、後半最後まで走り続けたり、距離があっても可能な限り攻撃に参加したり、裏に走るようにしたり。あとは球際など泥臭い部分で負けないこと。自分よりホン・チョル選手の方が評価が高いことは知っているので、そういう泥臭いところで絶対負けないように心掛けています」

―では、実際にKリーグでプレーしてみて、韓国にやってくる前とのイメージの違いはありましたか。

「イメージ通りではありましたね。僕もKリーグに対してリスペクトをして韓国にやってきたので、全員が上手いですし、フィジカルのレベルも高い。そういった部分をピッチの上で感じました。外国人選手のレベルも高いので、そのような部分でもっと自分も頑張らなければならないと思っています」

(写真提供=大邱FC)大邱FCマスコットと握手する鈴木圭太

鈴木圭太が振り返る「ACL浦和戦」

―今季ACLはプレーオフからの出場となりました。グループステージ進出時は浦和レッズと同組を戦うことが決まっていましたが、Jリーグ勢との対戦に思うところはありましたか。

 

「正直なところ、別になかったですね(笑)。Jリーグ勢との対戦だからといって特別何かこうしよう、というのはありませんでした。普段のKリーグでも全北現代などとても良いチームと試合していたので、そこと同じような、いつも通りプレーする感覚を持っていました」

―タイで行われたグループステージでは、初戦で山東泰山(中国)に7-0で勝利するも、第2節でライオン・シティ・セーラーズ(シンガポール)に0-3と敗れましたが、当時のチームの雰囲気はどうだったのでしょうか。また、鈴木選手自身は当時の状況をどのように感じていたのでしょうか。

「(山東泰山との)初戦が少し簡単な試合になってしまってので、結果としてそこで気の緩みが生まれてしまったのは間違いなくありました。それで、(セーラーズとの)第2節も同じ感じで勝てるだろうみたいな雰囲気があって、相手に先制されてからは“ちょっとやばいぞ”というような焦りが出てきて。その後は上手く相手のカウンターにはめられて、負けてしまいました。チームとしても、みんな口にこそ出していませんでしたが、“もうチャンスないかもな”というようなかなり重い雰囲気になりました。次の浦和レッズ戦で絶対に負けられない、勝たなければならない状況になったので、自分たちで難しいグループステージにしてしまったという感じの雰囲気はありましたね」

―では、第3~4節で2連戦を戦った浦和レッズに対して、チームや個人としてどのように分析していましたか。

「決勝トーナメントでまた戦う可能性があるので多くは言えませんが、全体的にテクニックがあって、チームとして形を持っているということや、外国人選手のクオリティが高いことは伝えられていました。なので、何よりもまず失点しないことを重点に置いて戦いました。ただ、僕の主観としては、当時は浦和に勝つのは難しいのではないかなと正直思っていました。Jリーグでの調子が良くないからと言って、ACLでも調子が良くないとは思わない。それだけのクオリティがあるチームなので、そこは関係なかったですね。僕たちが全力で戦っても勝てるかどうかわからないチームだったので、グループステージの2試合ではありましたが、全員が全力で戦いました」

―浦和では過去に鈴木選手と同姓同名の「鈴木啓太」さんが16年間一筋で活躍されていました。そんなレジェンドと同名であることを鈴木選手自身はご存じでしたか。

「いや、もう小さい頃から知っていましたよ(笑)。なので、自分の名前を言うと“え、スズキケイタ!?”って驚かれることはたくさんありましたね」

(写真提供=大邱FC)浦和戦の大邱FC。鈴木は左から4番目

―第3節で鈴木選手はフル出場していましたが、浦和というチームを肌で体感してみていかがでしたでしょうか。

「肌感としてやはり良いチームでしたし、上手かったですね。日本人選手はもちろん全員上手いですし、外国人選手のクオリティも高かったです。でもなんというか、上手いだけがすべてじゃない、正義じゃないというのは知っていたので、試合も浦和に支配率75%程度ボールを持たれていましたが、その分僕たちが走れば良いし、泥臭くプレーして最後まで点を決められなければ良い。それで、一発のカウンターで点を取れれば勝てると思っていました。

僕以外の選手は、過去のACLで日本勢と対戦した経験があったからか、相手に対してリスペクトをしながらも、“自分たちも戦える”という感覚を持っていたと思います。僕自身も前半プレーしてみて、“これはチャンスがある”と感じていました。前半を0-0で守れば、後半に必ずチャンスがあると思っていたので、試合開始からずっと走らされて体力的にも苦しかったですが、それでもチャンスはあると感じていました」

―その後半には、鈴木選手のアシストからブラジル人FWゼカが決勝ゴールを決めました。当時の状況を振り返っていかがでしょう。

「あの時は逆サイドにボールがあるときに高い位置を取って、そこからボランチの選手がワンタッチ、ツータッチで繋いで自分のサイドの広いスペースにボールを展開させるというのを自分のなかでイメージしていました。当時はブルーノ・ラマス(現・釜山アイパーク)からボールが来たのですが、正直、マイボールになるか相手ボールになるかわからなくて、前に出るのを一瞬躊躇しました。でも、思い切って出てみたら味方が上手くボールを繋いで、ラマスがパスを送ってくれて。僕の前にもスペースが結構ありましたし、“これはいけるな”と思って、クロスもできるし仕掛けることもできる位置にボールを運びました。

大邱FCはクロスの練習をたくさんしますし、僕自身もモンテネグロ時代にゼカのような大きい選手がペナルティエリア内にいるというシチュエーションが多かったので、そのイメージでクロスを上げました。少しアーリー気味の位置ではありましたが、上げれば何か起きると思いましたし、エリア内にはゼカ以外にも何枚かいたので、ゼカが上手く合わせられなくても、こぼれ球を狙えると思っていました。

ボールがエリア内に入るということは、すなわちゴールに近くなるということなので、それを意識して上げたら、ゼカが上手く合わせてくれました。Jリーグだと、あのタイミングでクロスを上げるよりはもう一度作り直すチームが多いかもしれませんが、大邱FCはそこでボールを失っても良いから、一本クロスを上げてチャンスを作ろうという意識がチーム全体としてありました」

―クロスを上げた当時は、上手く蹴ることができたという感触があったのでしょうか。

「そうですね。ボールを高く上げて、上から落としたいと思っていたので、そのイメージで蹴ったら、自分の足の感覚も良かったです。最初はクロスが合ったと思っていなかったのですが、ゼカが高い打点で合わせてくれましたね」

(写真提供=大邱FC)浦和戦の鈴木圭太

―結果として第3節の浦和戦は1-0で勝利しました。大邱FCは過去のACLでサンフレッチェ広島、川崎フロンターレ、名古屋グランパスといった日本勢と対戦し、通算5戦全敗としていましたが、この試合でクラブ初の対日本勢初勝利を挙げました。その決勝点をアシストしたのが日本人の鈴木選手という部分で、当時思ったことはありましたか。

「アシストという形に残る結果を出せたことは個人的にも大きかったです。ただ、チームとしてはその前の試合でセーラーズに敗れて崖っぷちの状態でしたし、よく浦和相手に勝ち点3を取れたな、という思いはありましたね。当時はまだセーラーズと勝ち点で競った状態でしたが、浦和に勝利したことでグループ突破の可能性が見えて、なんとか首の皮1枚つながったような気分でした。浦和戦の勝利以降、間違いなくチーム内の雰囲気は良くなりました。でも、やはり一度セーラーズに負けた経験があったので、みんな気を抜いてはいませんでした」

―浦和戦の勝利後、反響はありましたか?

「ありましたね。古い友達から連絡も来ましたし、露出の多かった試合だったんだな、と思って嬉しかったです。当時はまだグループも折り返し地点で、突破も決まっていなかったので余裕はありませんでしたが、浦和というわかりやすい相手に勝ったこともあって反響は大きかったです」

「僕の姿を見て知ってほしい」

―鈴木選手は現在(27試合消化時点)、Kリーグ1出場19試合のうち先発起用が7試合。そのほかは途中出場と、ベンチスタートが多いシーズンとなっていますが、Kリーグでの自身の戦いぶりはどのように評価していますか。

「やはりホン・チョル選手が良い選手なので、彼に負けてはいけないという思いでリスペクトを持ってやっています。ホン・チョル選手も負傷離脱や、代表選出で疲労がたまることもあると思うので、そこで彼が試合に出られないときに自分が出場して、何ができるかというのを意識しています。

自分が試合にあまり出られていないことに関してはそこまで悲観していなくて、今はチャンスを待っているという感じです。元々、ACLグループステージでタイに行く前に負傷をして、何試合か欠場したのですが、それから今はコンディションも上がってきていますし、Kリーグの環境にも慣れてきているので、これから良くなってくると自分のなかで思っています」

―今季のKリーグは鈴木選手だけでなく、多くの日本人選手がプレーしています。実際に現在プレーする身として、Kリーグにより多くの日本人選手が来るべきだと思いますか。

「いや、そんな簡単なリーグではないと思っています。ただ、このリーグで活躍できれば日本でも必ず活躍できると思うので、Jリーグなどで出場機会を得られていない選手なんかは、韓国に行くチャンスがあればチャレンジしても良いとは思います」

―では、Kリーグという舞台を戦う抜くために必要な要素とは何でしょうか。

「やはりメンタルじゃないですか。あまり抽象的なことしか言えませんが、それこそ外国人選手としてやってきて、最初は言葉もわからないなかで活躍することはかなり難しいと思うので、そこで負けずに戦い続けられるかというメンタルがとても重要だと思います」

(写真提供=大邱FC)鈴木圭太(中央)

―今季の個人的な目標などは何か設定していますか。

「そこはあまり設定していなくて、僕自身としては自分の成長だけはすごく大事にしています。この1年間でチャンスをいただいて、あまり試合に出られていないときもありますが、それは別に今現在の結果でしかありません。なので、自分が大邱FCに加入した今年1月のときと、シーズンが終了した10月のときとで、自分がどれだけ成長できたのかいうのを意識しています。僕もまだ24歳なので、そこを一番大事にしています。

試合に出場して数字を残すこともとても大事ですが、そこにあまりとらわれすぎず、自分が日々どうすれば成長できるかを考えています。そういった意味では、この期間にACLも経験したので、メンタル面では1月の自分とはかなり差が出ていると思います。そのような“成長”の部分を一番大事に考えていますね」

―最後に、今後自分が「こんな選手として記憶されたい」というような考えはありますか。

「僕はJリーグで、日本でプロにはなりませんでしたが、そういうチャンスがあまりなかった選手でも、自分で欧州に渡って、ちゃんと自分と向き合って成長することができれば、違う国でもプロとしてやっていけます。

Jリーグだけがプロの道ではないですし、違う国でプロとしてやれることは必ずあると思うので、そういった部分を僕の姿を見て知ってほしいですね。それこそ、Jリーグでプロにならなかった選手がACLという大きな舞台に出ているような。そういった姿を見ていただいて、これから自分に続くような選手がどんどん出てきてくれると嬉しいです」

(写真提供=大邱FC)

(取材・文=姜 亨起)

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