サッカー日本代表と対戦する「ベトナムのヒディンク」を密着記者はどう見ているのか?

本日(11月11日)、森保一監督率いるサッカー日本代表とカタールW杯アジア最終予選を戦うベトナム代表。その指揮官が韓国人のパク・ハンソ監督であることは、2019年アジアカップでも対戦したのでサッカーファンの間では知られたことだ。

現役時代は韓国代表に1回しか選ばれず、その1回が1981年3月の日韓定期戦での交代出場という地味な経歴ながら、2002年日韓W杯でフース・ヒディンク監督を補佐する韓国人首席コーチを務めたことで「ヒディングを支えた韓国人コーチ」「4強神話の隠れた助演者」として、韓国でも有名になったパク・ハンソ監督。

2017年9月からベトナム代表監督に就任すると同国に数々の快挙をもたらし、「ベトナムのヒディンク」「ベトナムを沸かすヒディンク・マジックならぬパク・ハンソ マジック」(いずれも韓国メディア)と絶賛されたほどでもある。

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パク・ハンソ監督

「アジア最終予選に導いただけで大きな成果」

だが、“ベトナムのヒディンク”もカタールW杯アジア最終予選では苦戦が続いている。9月はサウジアラビア代表、オーストラリア代表に連敗し、10月は中国代表、オマーン代表にも歯が立たず4連敗。勝ち点ゼロの最下位である。

それでもパク・ハンソ監督の更迭や辞任が囁かれることはない。サッカー専門誌『FourFourTwo KOREA』編集長を歴任し、現在はフリーのジャーナリストとして記事だけではなく動画も配信するホン・ジェミン氏も語る。

「ベトナム現地でパク・ハンソ監督とチームを取材すると、彼がベトナム国内や同国サッカー協会から一目置かれていることが、よくわかります。FIFAランキング90位台のベトナムが12チームのみ進めるアジア最終予選に導いただけでも、大きな成果なんですよ。だから4連敗でも去就問題までは発展しないし、2022年1月の契約更新時期までは注視するのでは」

2017年以降、ハノイ、ホーチミン、タイ、カタールでパク・ハンソ監督を密着取材し、今でも頻繁に連絡を取り合う仲にあるホン・ジェミン氏によると、「パク・ハンソ マジック」は今でも威力を発揮しているらしい。

「結果がパク監督のマジック健在を証明しています。W杯アジア最終予選では苦戦していますが、先週は兼任するU-23ベトナム代表をAFC U-23アジアカップ本大会進出に導いた。パク監督になってベトナムは同大会3大会連続出場ですよ。結果が出ているから当然、協会や選手たちとの関係も良好。U-23代表を率いている期間も、A代表選手たちはオンライン・ミーティングなどでコミュニケーションをとっていたようです」

選手のマッサージ役を買って出てスキンシップを深めたり、ケガや故障を抱えている選手の飛行機移動のためにビジネスクラスを用意したりなどしながら、ベトナムの選手たちとの関係を築いてきたアナログ人情派のパク監督が、最近はオンラインを活用したコミュニケーションにも積極的だというのがちょっぴり意外だったが、韓国的な“精神武装”の注入も相変わらずだという。

「諦めたり、走れず倒れてしまいそうなとき、君たちを応援するベトナム国民たちのことを考えてみなさい。今、君たちが諦め、走るのをやめてしまったら、ベトナムが諦め、倒れてしまう。そう思ったら足を止められないだろ?」

これがピッチに選手たちを送り出す際にパク監督が繰り出す決まり文句だが、最近はそれもすっかり定着して選手たちの意識が変わったとホン・ジェミン氏も感じるという。

「パク監督が就任した頃のベトナムの選手たちは、どこか統率が取れておらず諦めが早い印象でしたが、今は選手たちがチーム戦術を遂行しようという意志が強く、勝負に対する執拗さがあり、しつこく粘り強くなった。実際、アジア最終予選も結果だけ見れば4連敗ですが、完敗というよりも惜敗が多い」

直近のオマーン戦に1-3で敗れた直後、『スポーツソウル』もパク・ハンソ監督率いるベトナム代表をこう評価していた。

「ベトナムはまずまずのパフォーマンスを披露している。厳しい組み合わせではあるものの、無気力に大敗するような試合は今のところない。ただ、これまでの4試合を通じてパク監督も“耐える力”が足りないことに気づいたはずだ。それだけに、守備時の集中力さえ少し育てることができれば、十分に勝ち点を獲得することも可能だろう。ベトナムは日本戦で、最終予選初の勝ち点獲得に乗り出す」と。

“格上”日本に大金星を狙う

日本攻略のために森保ジャパンに関する情報収集と分析に勤しんでいるのは、パク・ハンソ監督とともにベトナムに渡って首席コーチを務めているイ・ヨンジン氏だ。KリーグのFCソウルや大邱FCのコーチ・監督を務めた58歳の参謀役とともに、パク・ハンソ監督はどんな対策をもって日本に挑むだろうか。ホン・ジェミン氏はこう予想する。

「選手の質でも層の厚さでも、日本とベトナムの差は歴然ですからホームであっても徹底的に引いて守るでしょうね。5バックで守りを固めて、ボールを奪ったら中盤も省略して前線に放り込む。わりやすく言えば、守って守り抜いて出たとこ勝負の一発にかける“放り込みサッカー”。Kリーグでも弱小チームを率いることが多かったパク・ハンソ監督は、もっとも得意としているスタイルです」

シンプルで古臭いかもしれないが、侮ることできない。森保ジャパンと対決した2019年アジアカップ準々決勝では堂安律が決めたPKで日本が1-0で勝利したが、ベトナムでは「多くの欧州組が属する日本と対等に戦ったということと、フィールドゴールを許さなかった点などが評価された」(『スポーツソウル』)らしい。

ハノイで行われ、1万2000人入場可能な「有観客試合」でもあるだけにベトナムの選手たちのモチベーションも高い。夏から現在まで長期合宿で息も合わせてきた。

「ベトナムでは新型コロナの影響で国内リーグが8月下旬には終了。そのおかげでべトナム代表選手たちは夏場から合宿生活を送りながら調整できているようです。日本戦はホームゲームなので、ベトナムの選手たちの気合も十分でしょう。私は1-0で日本勝利を予想しますが、万が一、ベトナムが大金星を挙げれば、それこそ新たな“パク・ハンソ マジック”の誕生となる。それはそれで見てみたい気もしますが…」

緻密な知略家でも強烈なカリスマ勝負師でもないが、人をその気にさせる「徳」があり、「運」もあると言われるパク・ハンソ監督。森保ジャパンと日本のサッカーファンたちにはどんな敵将として記憶されるだろうか。興味は尽きない。

(文=慎 武宏)

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