名誉毀損か、公的な関心事か。
2018年の平昌冬季オリンピックでの“八百長疑惑”に包まれた女子ショートトラック韓国代表シム・ソクヒに対する、韓国氷上競技連盟の懲戒に注目が集まっている。
去る10月8日、韓国メディア『ディスパッチ』が3年前の平昌五輪当時、シム・ソクヒとある代表コーチが交わしたモバイルメッセージを公開した。主な内容は、シム・ソクヒが代表チームの仲間であったチェ・ミンジョン、キム・アランに行った悪口や侮辱するテキストだった。
だが議論となっているのは、「ブラッドバリーを作ろう」というフレーズだ。
これは、オーストラリア出身の男子ショートトラック選手、スティーブン・ブラッドバリーを指している。彼は2002年ソルトレイクシティ五輪の男子1000m決勝で、最下位を走っていたが、アン・ヒョンス、アントン・オーノ、李佳軍などの優勝候補が相次いで衝突して倒れながら金メダルに輝いたことがある。
妙なことに、平昌五輪の女子1000m決勝でシム・ソクヒは、金メダルを競っていたチェ・ミンジョンと最後の1周を残して衝突した。強力な金メダル候補だった韓国選手2人が同時に倒れながら、オランダのスザンネ・シュルティングが優勝した。
チェ・ミンジョンは1000m決勝で金メダルを逃しながら、3冠の夢が消えた。『ディスパッチ』の報道を見た多くの人々は、シム・ソクヒが仲間に恨みを抱いて、そのコーチと相談しながら、事実上の八百長を行ったのではないかと疑惑を提起した。
韓国氷上連盟は今回の事案を非常に深刻にとらえ、シム・ソクヒとそのコーチの懲戒を議論している。ただし、今後のシム・ソクヒとコーチ側の対応を考慮して、法理的な判断を優先すべきという話も出ている。
何よりも個人が送受信したメッセージを公開した今回の報道に、正当性があるかどうかについては様々な意見がある。プライバシーの侵害、名誉毀損に該当するという見解と、八百長の可能性、公的な関心事に該当するという見解に分けられている。
法曹界からも2つの意見が上がっている。
1つは、シム・ソクヒのプライベートメッセージがメディアの報道に出てきたことをめぐり、選手個人の人間性を離れ、「事実摘示の名誉毀損」に該当するという立場だ。
刑法第307条第1項に規定されたもので、「公然の事実を摘示して人の名誉を毀損した者は、2年以下の懲役や禁錮、または500万ウォン(約50万円)以下の罰金に処する」という内容だ。ただ同法310条では、公共の利益に関するものであれば処罰しないという例外規定を設けている。
ハン・スンボム弁護士は、「ひとまずシム・ソクヒと代表コーチのメッセージは、個人情報に該当する。(報道自体が)他人の秘密を毀損しないようにするという内容を盛り込んだ情報通信網法違反に該当する可能性がある」とし、「もちろんメディアがメッセージをどう入手したかを確認しなければならないが、選手やコーチが望んでいたり、同意したりしたものではないであろうからだ」と説明した。
一方でクァク・ホグン弁護士は、シム・ソクヒの一連の事件を公的な関心事に分類した。
クァク弁護士は、「単に誰かを侮辱するのは個人の人間性の問題に限定される。ただ八百長問題にまで進むと、別の話になる」とし、「シム・ソクヒはオリンピックメダリストであり、国民の関心を受ける選手だ。そんな選手が厳格でなければならない勝負の世界で、違法な行為をしたということは、国民の公憤を買うに値する関心事だ。公共の利益の側面まであると思う」と語った。スポーツ界の誤った慣行をつく一環として出てきた報道であれば、違法性はないということだ。
なおシム・ソクヒは関連報道が出た3日後の10月11日、所属事務所galaxiaSMを通じて立場を明らかにした。
彼女は「平昌五輪期間、未成熟な態度と言動で多くの方に失望と傷を与えた点、心からお詫びする」とし、仲間を侮辱したメッセージについては頭を下げた。続いて「オリンピックを控えてチョ・ジェボムコーチから無慈悲な暴行を受け、脳震盪(のうしんとう)の症状を見せ、選手村を脱出するなど身体的・精神的に非常に不安定な状態だった」と付け加えた。
しかし八百長疑惑については全面否定した。
シム・ソクヒは「まったく事実ではない。私もチェ・ミンジョンも、アウトコースから相手を追い越して終盤にスパートをかける方式を得意として活用する。その試合でも、それぞれの特技を活用した。その過程で衝突が生じて倒れ、2人ともあまりに切ない部分」と釈明した。
シム・ソクヒは来る10月21~24日に中国・北京で開催される国際スケート連盟(ISU)ワールドカップ第1戦のために、10月17日に出国する予定だったが、当該報道後、代表チームから分離された。
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