今からちょうど1年前の2018年6月27日。サッカー韓国代表は、ロシアW杯グループリーグ最終戦でドイツと対戦し、2-0の勝利を収めた。
この1勝の意味は、数字以上だった。韓国はグループリーグで2連敗を喫したが、ドイツに2点差で勝ち、メキシコがスウェーデンを下せば決勝トーナメントに進出できる状況だった。メキシコが敗れて16強進出は叶わなかったが、韓国が勝利したチームがドイツということで大きな注目が集まった。
ドイツは当時、ディフェンディングチャンピオンであり、FIFAランキング1位であった。1986年メキシコW杯の得点王で、イングランドを代表するゲーリー・リネカーは韓国の勝利を見た後、「サッカーは90分間戦ってドイツが勝つ試合という私の1990年の発言を修正するときが来た」と語った。
当然ながら、当時韓国代表を率いたシン・テヨン監督の再評価が行われている。
シン監督はワールドカップの1年前、ウリ・シュティーリケ元監督が去った韓国代表チームに赴任した。ロシアW杯アジア最終予選の2試合を残した状況で、ワールドカップ出場失敗の危機にまで追い込まれた韓国は、辛うじて連続出場記録を9回に伸ばした。
ワールドカップ終了直後は、グループリーグ敗退の責任論も騒がれたが、“カザンの奇跡”と呼ばれるドイツ戦の勝利は、今の韓国サッカーに勢いをつけた原動力とされる。
6月26日、ドイツ戦勝利1周年を前日に控え、城南(ソンナム)の自宅で『スポーツソウル』と会ったシン監督の表情は明るかった。
「ドイツ戦は、私が監督を務めて行った最もドラマチックな試合だった。人生のなかでも頭の中に最も大きく記憶されている」とし、「グループリーグで敗退したのは監督として責任を負うべき部分だが、選手たちと一緒に最後まで最善を尽くしたという点で後悔はない」と笑った。
当時シン監督は、ドイツ戦直前のインタビューで論議の中心に立った。「相手するチームがディフェンディングチャンピオンだ。私たちがいくら組織力でぶつかっても、ドイツという壁を簡単には越えられない感じがする」という発言のせいだった。「監督の気持ちが先に負けている」「選手たちの士気が下がる」との世論が沸き立った。
しかしその発言は、高度な戦略だった。
シン監督は「正直に言うとドイツのヨアヒム・レーヴ監督が、アジアのチームをまともな相手と考えていない印象を受けた。サウジアラビアとの最後の強化試合を通して、過信する態度を見た。韓国にも当然勝利すると考えているようだった。もし我々がどうにかして勝とうともがく姿を見せれば、韓国をしっかりと分析していないドイツが警戒心を持って準備すると考えた。相手の油断を誘導するために、相手を認めるインタビューをした」と振り返った。
実際に内部では「大仕事をしてやろう」という意志がみなぎっていた。シン監督も同じだった。ドイツのグループリーグの試合はもちろん、ワールドカップ前に行われた親善試合まで徹底的に分析した。それをもとに起用選手についても徹底的に考え抜いた。
重要な戦力であったキ・ソンヨンの空白を埋めるために、“国民逆賊”とまでされたチャン・ヒョンスにこだわった点が代表的だ。更迭すべきとの声まであった当時の雰囲気では、容易ではない決定だった。
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シン監督は「第2戦が終わった後、ヒョンスが“もうチームに迷惑をかけることはできない”と、ドイツ戦でプレーできないと伝えてきた。しかしソンヨンが怪我をした以上、その場でチームの中心を握れる選手はヒョンスだけだった。“私は帰国したら代表監督を辞めるつもりだ。最後まで最善を尽くして、きれいに終われるように手伝ってくれ”と説得した」と話した。結局、ドイツ戦に先発出場したチャン・ヒョンスは、ぶれることなくシン監督の要求に応えた。
アジア大会の金メダル獲得、ベント・コリアの善戦、U-20ワールドカップ準優勝と、韓国サッカーの復興を見守ったシン監督は「本当に胸がいっぱいだ」と話す。「もしドイツ戦で敗れていたら、そのままドロ沼にはまっていたかもしれない」と、最大の収穫として2つを挙げた。