「CDが売れない時代」と言われ始めてから、どれくらいの時が経っただろうか。
SpotifyやApple Musicといったサブスクが音楽を楽しむメインツールとなり、世界中でフィジカルメディアの存在感が薄れつつある。
かつて、CDは音楽を楽しむための“当たり前”の手段だった。しかし、デジタル化の波に押され、日本でも1998年をピークに生産枚数が激減。当時は4億5717万枚ものCDが生産されていたが、昨年の出荷数はわずか10万4505枚(8cm、12cm合計、一般社団法人日本レコード協会調べ)に。
とはいえ、日本では「推し文化」が根強く、いまだにCDを購入する熱心なファンは多い。ただ、購入する目的はイベントチケットやアイテムなど、同梱品が目当てだろう。
そんなCD不況の中、韓国では売上を伸ばすために独自の進化を遂げた「特殊形態CD」が次々と登場している。単なるコレクションアイテムにとどまらず、ファッション、デジタルコンテンツ、さらには実用品としての価値まで兼ね備えたCDが生み出され、ファンの購買意欲を刺激しているのだ。
K-POPといえばフォトカードやフォトブック付きのCDが定番だが、近年ではさらにユニークな試みが続々と展開され、世界中の音楽市場に新たな可能性を提示している。
まずはK-POP界に新風を巻き起こし続けているNewJeans。彼女たちは2022年のデビューEP『New Jeans』で、「バッグVer.」をリリースした。
CDケースがミニバッグの形状になっており、ファッションアイテムとしても楽しめる仕様だった。
その後も、2nd EP『Get Up』では「ビーチバッグVer.」を発表。透明なビーチバッグの中にCDや特典が入る形になっており、実用性とデザイン性を兼ね備えた新たな形態だった。
さらに、日本デビューEP『Supernatural』では、アーティストの村上隆とコラボした「ドローストリングVer.」や「クロスバッグVer.」をリリース。毎回異なるコンセプトのバッグ型CDを発売することで、ファンに新鮮な驚きを提供し続けている。
NewJeansのアルバムは「CDを買う」だけでなく、「持ち歩きたくなる」「ファッションの一部として楽しむ」という新たな価値を生み出している。
続いてaespaは、2023年にリリースした3rdフルアルバム『Armageddon』で、まさかのポータブルCDプレーヤーを同梱。現在のファッション業界では、2000年代の流行を取り入れた「Y2K」が再び注目を集めている。aespaのCDプレーヤーは、このトレンドに乗ったアイテムでもある。
また、近年では「特典目当てでCDを購入し、CD本体は不要」という風潮が広がっているが、aespaは「CDを再生しよう」というメッセージを込めて、この特殊形態をリリースしたと言われている。
2万円弱という高価格にもかかわらず即完売し、メンバーすら手に入れられなかったほどの人気を誇った。CDが売れない時代に、CDそのものの価値を再定義する試みとして、大きな話題となった。
BIGBANGのリーダーとして一時代を築き、“キング”と称されるG-DRAGONは、11年5カ月ぶりとなるソロアルバム『ÜBERMENSCH』を2024年2月25日にドロップ。
注目すべきはCDだけでなく、NFCタグを利用した「MINI JEWEL Ver.」の登場だ。これは物理的なCDではなく、韓国初のアーティスト専用音楽アプリ「G-DRAGON x NEMOZ」で楽曲を楽しむ新たなスタイルを提案したもの。
このアプリでは、「高音質FLACフォーマットでの再生」「NFC技術を活用したアルバム認証(NFC DISC & NFC PHOTOCARD)」「13言語対応の歌詞翻訳&発音ガイド」などが搭載されており、CDという物理メディアに頼らず、デジタルコンテンツとしての付加価値を高めている。
これは、K-POPがCD市場だけでなく、デジタルプラットフォームを活用した新しい収益モデルを模索していることを示している。
バッグ型、CDプレーヤー付き、専用アプリ対応と、K-POPのCD形態は、時代に合わせた進化を続けている。
フィジカルメディアが衰退する中、K-POPはアルバムを“音楽を聴くためのツール”ではなく、“所有すること自体が価値を持つもの”へと変化させている。これまではフィジカルCDを持つことで所有欲を満たしていたが、K-POPはさらにその価値を「実用性」や「体験型コンテンツ」として拡張しようとしている。今後、K-POP以外のアーティストもこうした特殊形態のCDを導入する可能性があるだろう。
(文=スポーツソウル日本版編集部X)
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