アジア人初の偉業達成したソン・フンミンの過去、現在、未来。父と歩んだ“プレミア得点王”への道

「数年後には1部で得点王になりたいです」

【独占写真】超貴重!内田篤人とソン・フンミンの2SHOT

時計の針を12年前に戻そう。2010年、満18歳の若さでドイツ・ブンデスリーガのハンブルガーSV(現2部)でトップチーム・デビューを果たした韓国の若き青年は、当時から早くも“脱アジア級”の目標を立てていた。

幼い年齢にもかかわらず、身体条件の優れる欧州のDF相手に流麗な個人戦術、正確なシュートを誇った彼には、すでに“欧州ビッグリーグ得点王”という確固たるビジョンがあった。

プロ以前は小学校や中学でサッカー部に所属せず、元プロサッカー選手である父親から直々にサッカーを学んだ。欧州でプロデビューを果たした以降も、オフシーズンには故郷・江原道(カンウォンド)春川(チュンチョン)市の孔之川(コンジチョン)に戻り、厳しいトレーニングに励んだ。

父親の指導の下、プロ選手になったにもかかわらず、徹底して基本技術のトレーニングに邁進した。左足で500本、右足で500本という“1日1000本”のシュート練習も怠らなかった。

そんな18歳の青年の夢は今、現実のものとなり、“神話”となった。青年は自身の憧れであり、大先輩であるパク・チソンがマンチェスター・ユナイテッドでプレーした当時、テレビの前で自分も“夢の舞台”に立つことを決意した。

そして今回、プレミアリーグでアジア人初となる得点王に輝き、ゴールデンブーツの栄誉を抱いた。トッテナムが誇る韓国代表ストライカー、ソン・フンミン(29)がその人だ。

18歳の当時、ハンブルガーSVに所属していたソン・フンミン

父親の信条が染み付いた“ソン・フンミン・ゾーン”

ソン・フンミンは5月23日(日本時間)、英ノリッジのキャロウ・ロードで行われたプレミアリーグ第38節(最終節)のノリッジ戦で先発出場すると、後半25分、30分の連続ゴールでチームの5-0の大勝に貢献するとともに、今季リーグ戦22~23ゴール目を記録した。

これにより、同日1ゴールを記録したリバプールのモハメド・サラー(29)とともに、共同で得点王に輝いた。

単独での得点王受賞こそ逃したものの、ソン・フンミンはサラーと違ってPKによる得点が1ゴールもない。つまり、純粋に流れのなかだけで23ゴールを積み上げた。これが、イングランド現地でもソン・フンミンの得点王の価値が高く評価されている理由だ。

得点王というタイトルがかかっていたこともあってか、ソン・フンミンのプレーには焦りが見えた。

トッテナムは後半中盤までに3点差を離す余裕ある展開で、ソン・フンミンには何度も決定機が訪れたが、相手GKティム・クルル(34)の好セーブに阻まれ続けた。いつもより焦っていたためかシュートに力が入り、決まらないたびにソン・フンミンは大きくうなだれた。

それでも、チームメイトの“援護射撃”もあり、後半25分に右足シュートでゴールネットを揺らした。そして、その5分後には、いわゆる“ソン・フンミン・ゾーン”と呼ばれるペナルティボックス左から右足で巻いたシュートを放ち、自身2点目となるゴールを突き刺した。

ペナルティボックスの左右は、12年前に孔之川でシュート練習を行った際、父ソン・ウンジョン氏の特訓を受けた位置だ。ソン・フンミンは「ゴールキーパーが機械でない限り絶対に止められない」という父親の信条で、ゴールポストの隅にボールを差し込む感覚を徹底的に身につけた。

この父親の教えもあり、ソン・フンミンは得点王の夢を実現することができた。今季リーグ戦で記録した23ゴールの内訳を見ると、左足で12ゴール、右足で11ゴールと両足均等に決めていることがわかる。まさに孔之川で流した汗が、彼に栄光をもたらしたわけだ。

父ソン・ウンジョン氏(左)とソン・フンミン(右)

13カ国目のプレミアリーグ得点王

何より、欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス)でプレーするアジア人選手において、ソン・フンミンが韓国人選手として史上初めて得点王に輝いたということが誇らしい。

以前にはイランのサルダル・アズムン(27、バイエル・レバークーゼン)が17ゴールでロシア・プレミアリーグ得点王、アリレザ・ジャハンバフシュ(28、フェイエノールト)が21ゴールでオランダ・エールディヴィジ得点王に選ばれたことがあった。

ただ、欧州5大リーグでは依然として、欧州や南米の選手、さらには身体的長所のあるアフリカの選手が得点王の座を独占していた。

ところが、ソン・フンミンはアジア人の1シーズンにおける最多得点記録を更新するとともに、プレミアリーグで得点王に選ばれる快挙を達成した。

1992-1993シーズンのプレミアリーグ発足以降、同リーグで得点王に選ばれた選手は、欧州5カ国(イングランド、オランダ、フランス、ポルトガル、ブルガリア)、カリブ海・南米3カ国(トリニダード・トバゴ、アルゼンチン、ウルグアイ)、アフリカ4カ国(コートジボワール、エジプト、ガボン、セネガル)から出ていた。

そして今回、韓国がアジア勢で初めてプレミアリーグ得点王を輩出した国として、通算13番目に新たに名を連ねた。

個人タイトルの次は“優勝”の栄光を

1992年7月8日生まれのソン・フンミンは、韓国の数え年で今年31歳となる。サッカー選手としては脂の乗り切った全盛期の年齢といえる。

そんな彼に残された夢は、クラブキャリアで過去一度も果たせずにいる“優勝”のタイトルを獲得することだ。

トッテナムは今季リーグ戦を4位でフィニッシュしたことで、来季UEFAチャンピオンズリーグ出場権を獲得した。振り返ると、2018-2019シーズン、トッテナムはクラブ史上初めてCL決勝に進出するも、リバプールとの同国対決で敗れ、ビッグイヤーを掲げることができなかった。

そんな悔しさの残る欧州最高峰の舞台に、ソン・フンミンが3シーズンぶりに帰ってくることになった。

また、ソン・フンミンは韓国代表キャプテンとして、今年11月に開催されるカタールW杯を通じて自身3度目となるワールドカップの舞台に挑戦する。

これまで出場した2大会(2014年ブラジル大会、2018年ロシア大会)はいずれも決勝トーナメント進出に失敗。ロシア大会ではグループステージ最終節でドイツ代表相手に大金星を決定付けるゴールを決めたが、結局は無念の敗退に涙を流すしかなかった。

ロシアW杯のドイツ代表戦、得点後に涙を見せるソン・フンミン

それだけに、プレミアリーグ得点王に選ばれた今季の好調ぶりをキープし、来るカタールW杯で今度こそ父親と約束した「W杯ベスト16以上」に挑む。

トッテナムでのシーズンを終えたソン・フンミンは、ブラジル代表などと対戦する6月の国際Aマッチのために帰国する。

現役選手にして韓国サッカー界最高の英雄が、“プレミアリーグ得点王”という肩書きを背負い、母国に凱旋する。

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