17年前の少女時代デビュー曲がデモ現場で鳴り響く韓国、絶望を希望に昇華させる「MZデモ隊」

2024年12月14日 話題

「数多くの知らない道の中、かすかな光を私は追いかけて/いつまでも一緒だよ、また巡り合えた私の世界」

【現地取材】韓国の集会でアイドルのペンライトが光るワケ

厳しい寒さの中、デモ現場で韓国市民たちが歌った曲の一節だ。少女時代が2007年に発表したデビュー曲『Into The New World』である。

希望に満ち溢れた歌詞、リリース当時はまだ10代の少女だったメンバーの初々しさが感じられる楽曲で、今も多くの愛を受けている。

少女時代のメンバーたちが「胸がいっぱいで泣いたりもした」という同曲は、「若者たちの“アチミスル(朝露)”」と呼ばれる。『アチミスル』とは、1970年代に軍事政権と対抗する学生運動など民主化を求める集会で歌われ、一時は放送禁止にもなった曲だ。

2024年現在、そんな『アチミスル』に代わって若者の抵抗ソングになったのが『Into The New World』というわけだ。

非常戒厳が宣言された12月3日からの1週間、韓国最大の音源プラットフォーム「melon」での『Into The New World』のリスナー数は、直前1週間(11月26日~12月2日)よりも23%増加したという。

「目の前にはたくさんの荒い道/わからない未来と壁、変わらないけど諦められない」

デモ現場で『Into The New World』が響き始めたのは、2016年に起きた梨花(イファ)女子大学の校内不正と非民主的運営を糾弾するデモからで、生徒たちは「抵抗の歌」と呼んでいた。

当時、校内に進入する1600人の警察に抵抗する学生たちは『Into The New World』を歌いながら、互いを励まし合っていた。この様子がSNSを通じて広がり、共感を呼び起こしたのだ。

少女時代
(画像=SMエンターテインメント)少女時代1stシングル『Into The New World』

抵抗のための絆、正しいと信じる未来に進もうとする連帯は、「共感」と「慰め」から出てくるものだ。その余波は同年に起こった朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾集会にまで続いた。

そして2020年には、首相退陣と王室改革などを要求したタイの反政府デモでも鳴り響いた。国境を越えて若い世代の抵抗ソングになったわけだ。

そして2024年12月、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による非常戒厳宣言・解除後は、大統領退陣要求集会が開かれる汝矣島(ヨイド)の国会議事堂前で再び鳴り響いた。

「愛してるよ、そのままの君を 思い描いてきた迷いの果てに/この世界で繰り返される悲しみよ もうさようなら」

メロディーだけを聞くと明るく希望に満ちているように感じられるが、歌詞には不安と、その中に秘められた強い“芯”が感じられる。暗い過去に戻ってしまうかもしれないという悲しみと、怒りの感情のなかでも崩れないように連帯し、慰め、前に進もうとする青年たちの決然とした意志が込められた。

『Into The New World』が集会の象徴と呼ばれることに対して、ある音楽業界の関係者は「2024年の戒厳令発動は恐ろしく、荒唐無稽でもあり腹も立つが、私たちの未来のために耐えなければならないのではないか。歌詞のように“かすかな光”に沿って、より良い世の中に向けた希望、そして民主主義を守り抜こうとする使命感を、まるで祭りのように愉快に進もうとしているように見える」と説明する。

韓国・集会
(写真提供=『時事ジャーナル』)12月3日の非常戒厳令事態後、国会前で行われているロウソク集会

また別の関係者は「曲名のように新しい世界に向かって、ともに歩こうという意味が、多くの世代に連帯感をもたらしたと考える」と付け加えた。

「変わらない愛で守って 傷ついた私の心まで/視線の中で言葉は要らない 止まってしまったこの時間」

時には一つの歌が警察との対峙、悲壮なデモよりも、さらに強く堅固になりうる。それが文化の力だ。

今年は『Into The New World』のほかにも、新たな楽曲たちが“デモ向けプレイリスト”に追加されている。aespaの『Whiplash』では若い参加者たちが音楽に合わせて「弾劾 弾劾 尹錫悦」と叫び、ロゼ×ブルーノ・マーズの『APT.』が流れると「辞退して辞退して」「尹錫悦辞退して」というフレーズを喉が裂けそうなほど声を張り上げる。コンサート会場に負けずとも劣らない合唱には、海外メディアも感嘆するほどだ。

ロゼ、ブルーノ・マーズ、『APT.』
(写真提供=THEBLACKLABEL)ブルーノ・マーズ×ロゼの『APT.』

一方で、「そんなに笑って歌っている場合か?」水を差す者も少なくない。しかし、歌の持つ力は計り知れない。厳しい状況を、まるで祭りのように愉快に乗り切ろうとする熱望でもあるわけだ。世代を問わず認知度の高い歌は、これまで集会に参加できずにいた人々を連帯できるようにした。

一度作られた絆は簡単には崩れない。最大野党の「共に民主党」は8日、尹大統領に対する弾劾訴追案を再度発議し、14日に表決に付すと明らかにした。13日には再び集会が予告されている状況だ。

『Into The New World』は再び市民の間で響き渡るだろう。怒りと問題意識を持っている多くの人々が、恐れずに集会に足を運べる勇気にもなるだろう。絶望に近い混乱のなか、若者たちが“抵抗ソング”を歌いながら投げかけるメッセージは希望になるはずだ。

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