韓国で盛り上がっているトロット・ブーム。
トロットは耳に残る中毒的な音楽とポジティブな歌詞が魅力的で、特に現代のトロットは絶妙に悲しさを醸し出すメロディーの裏に、明るく前向きな歌詞が歌われているので自然と元気も出る。
そんなこともあって韓国では今やK-POPアイドルも顔負けの人気を誇る音楽ジャンルだが、その始まりには日本も少なからず影響していることをご存じだろうか。
というのも、そもそもトロットの起源は20世紀初頭にまでさかのぼる。西洋の影響を受けた日本の近代文化が朝鮮半島に流入する過程で、日本の演歌や歌謡曲といった大衆音楽も浸透。それが半島内で独自に発展・変容してきたのがトロットの起源だと言われているのだ。
実際、戦前戦後のトロットの曲を聞いてみると日本の演歌・歌謡曲に近いエッセンスがないわけでもない。日本の懐メロと共通する何かが、そこにあるのだ。
それだけに韓国からやってきたトロットの歌い手たちが日本で活躍した例も多い。
例えばチェ・ウニだ。「韓国の美空ひばり」とも呼ばれたイ・ミジャの娘であるチェ・ウニは、1972年にわずか8歳にしてデビュー。1970年代末には日本マーキュリーレコードからアルバム『椿むすめ』を発表し、1998年には舞台を日本に移して本格的に活動。『トーキョー・トワイライト』で日本デビューすると、第42回日本レコード大賞新人賞に輝いた。
韓国ではポップス・キングともされるチョー・ヨンピルも、日本ではトロットでその名を馳せた。
韓国で30万枚のヒットを記録した『釜山港へ帰れ』を引っ提げて1982年に日本デビューを果たしたチョー・ヨンピルは、1987年に韓国人歌手として初めてNHK紅白歌合戦に出場。以降1990年まで4年連続で出場した。その人気は今も健在で2013年に15年ぶりの日本公演を行った際、空港に出迎えファンが殺到したほどだった。
このチョー・ヨンピルが日本における男性トロットの代表格とすれば、女性トロットの代名詞となったのはパティ・キムだろう。
『愛するマリア』の日本語詞『いとしのマリア』が1969年にヒットして日本でもその名を知らしめたパティ・キムは、1989年にNHK紅白歌合戦にも出場。韓国で大ヒットした『イビョル』を披露して日本の国民的行事を盛り上げた。
もっとも、その歌声で国境を越える支持を集めたのは韓国人歌手だけではない。日本の歌手が韓国で演歌を披露した事例も多い。
先駆けの一例が松崎しげる。1970年に歌手デビューした松崎しげるは、1977年に『愛のメモリー』で日本レコード大賞歌唱賞を受賞。その後、1993年に韓国で行われた大田(テジョン)国際博覧会の公式イベントのステージに立ち、コーラスグループ“サーカス”とともにそれぞれのヒット曲を披露した。同ステージは韓国政府が初めて許可した、日本人歌手による日本語での公演だった。
そんな歴史的ステージに立った松崎しげるが、今度は日本でトロットに関わるという。今冬に日本で初めて行われるトロット・オーディション『トロット・ガールズ・ジャパン』の審査員を務めるというのだ。
昭和の時代から“熱唱のカリスマ”として知られる松崎しげるをはじめ、KARAのホ・ヨンジ、作編曲家の船山基紀、K-POP評論家の古家正亨、音楽プロデューサー兼DJであるNight Tempoなどか審査員を務めることで、オーディション参加者たちのモチベーションアップ。そのシナジー効果で、日本版トロットの世界観がさらに広がることが期待されている。
いずれにしても、トロットという音楽ジャンルを通じても繋がっていた日本と韓国。その関係性は『トロット・ガール・ジャパン』を通じてますます深まりそうだ。
(文=佐々木 夏美)
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