韓国映画『殺人の追憶』をご存知だろうか。
今年の第72回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞したポン・ジュノ監督の出世作であるこの映画は、“韓国史上最悪の未解決事件”といわれる「華城(ファソン)連続殺人事件」をモチーフにした名作だ。
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華城連続殺人事件とは、現在の京畿道・華城市で1986年9月から1991年4月にかけて10人の女性が強姦殺害された事件のこと。被害者は全員、性器に激しい損傷を負ったという共通点があり、その猟奇的で無慈悲な殺害方法が韓国中を震え上がらせた。
衝撃度の大きさを証明するかのように、この未解決事件をモチーフにした映像作品が数多く世に送り出された。
昨年、坂口健太郎主演で放送されたドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』(フジテレビ系)の原作となった韓国版にも、華城連続殺人事件を想起させるエピソードが出てくる。
それでもやはり『殺人の追憶』のファーストインパクトを超える作品はなかった。
韓国では華城連続殺人事件以外にも映画化されてそれらは日本でも公開されているのが、『殺人の追憶』はその代表作といえる。
映画では、俳優ソン・ガンホ演じる刑事パク・トゥマンがカメラ目線でじっと見つめるラストシーンが圧巻の一言。ポン・ジュノ監督は当時、真犯人が必ず映画を観ると踏んで、2人が目を合わせるように意図したのだと説明している。
先週末、この有力な容疑者が33年ぶりに特定されたとのニュースが流れ、衝撃が走った。
京畿南部警察庁の発表によると、容疑者は56歳の男性で、華城連続殺人事件の10人目の被害者が出た3カ月後となる1991年7月に婚姻届を提出。それから約3年経った1994年1月に義妹を強姦殺害した罪で無期懲役が確定し、現在も服役中という。
『殺人の追憶』の韓国公開は2003年だから、残念ながら映画を見た可能性は極めて低いだろう。
以前、世界的なグラフ雑誌『LIFE』による「連続殺人犯の世界トップ30」に含まれた韓国の死刑囚ユ・ヨンチョルが「華城連続殺人事件の犯人は他の事件で服役しているか、死亡しているはず。殺人はやめられないから」と語っていたが、まさにその通りだった。
さらに驚いたのは、その有力な容疑者が“1級模範囚”として分類されていたことだ。
なんでも24年の服役期間中、一度もトラブルを起こしたことがないらしい。もし無期懲役囚ではなく普通の受刑者だったら仮釈放の可能性もあったということだ。
普段無口で大人しい性格だった彼が華城連続殺人事件の容疑者として指名されたことに、刑務官および他の受刑者らも驚いたと語っている。
このニュースが流れたあと、『殺人の追憶』が再び注目を浴びていることはいうまでもない。
主演俳優のキム・サンギョンは「当時、“なぜ未解決事件をあえて映画に?”という質問に対して“ずっと忘れないこと自体が報復の始まりだ”とコメントした覚えがある。ポン・ジュノ監督も僕のコメントを覚えていてくれた。やっと報復したし、終わったと思える」と、容疑者特定への感想を口にした。
すでに時効とはいえ、韓国が忘れずにいた未解決事件が解決に向けて走り出した。ようやく「追憶」から抜け出し、「真実」と向き合うときが来た。
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