映画『ベイビー・ブローカー』の是枝裕和監督「セリフを途中で切ってくれという俳優は初めて」【インタビュー】

2022年06月11日 映画

「優れた俳優たちとの作業は言語の違いを超える魅力的な体験だ」

【写真】『ベイビー・ブローカー』メイキングカット

『万引き家族』(2018)、『そして父になる』(2013)、『誰も知らない」(2004)など、韓国国内にも多くのファンを持つ日本の巨匠・是枝裕和監督は、韓国俳優と共にした映画『ベイビー・ブローカー』の作業をこう表現した。

『万引き家族』で4年前のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した彼は、『ベイビー・ブローカー』の主演俳優ソン・ガンホが主演男優賞に輝きながら、巨匠の品格を再確認させた。是枝監督は、「私ではなく、韓国監督の映画で賞を受けていたらもっと良かっただろう」と謙遜した。

ソン・ガンホへの信頼

特にソン・ガンホに対する是枝監督の信頼は絶対的だ。監督は「現場では俳優ソン・ガンホの頼もしさを毎日感じることができた」と表現した。

(写真提供=CJ ENM)是枝裕和監督

「韓国語がわからない私が判断できるのは、セリフの意味以外のものだ。そんな時、ソン・ガンホが隣に来てくれて“この前のテイクが良かったようだ”というように率直に感想を伝えてくれた。彼は、決定するのは監督の役割なので、自分の意見は参考までにしてくれと求めた。そんな作業が毎日続いた」

映画の名シーンとして挙げられるイ・ジウン(IU)の「生まれてくれてありがとう」というセリフも、ソン・ガンホのアイディアが編集で光を放ったシーンだ。

是枝監督は「当時、ソン・ガンホがその部分で自分のセリフを切ってほしいと言った。実際に編集室でそうしてみると、圧倒的に良かった。完成度のために、自分のセリフを途中で切るほうがいいという俳優は、初めてだった」と親指を立てた。

(写真提供=CJ ENM)左からカン・ドンウォン、イ・ジウン、ソン・ガンホ

映画の事実上の主人公であるソヨン役のイ・ジウンに対しても、賞賛を惜しまなかった。ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』を通じて彼女のファンになったという是枝監督は、「ドラマだけを見て、“クールそうな人”という印象を持っていたが、現場では気さくに笑う姿を見せてくれてコミュニケーションがスムーズだった」と伝えた。

劇中、ソヨンは複雑な過去を持つ人物として描写される。各種の犯罪にさらされ、ついに自分の子供を捨てるまでに至る。そんなソヨンの姿は、『私のおじさん』でイ・ジウンが演じた「イ・ジアン」というキャラクターと一部が重なるともいえる。

しかし是枝監督は「『私のおじさん』のイ・ジアンとはまったく違う」と線を引いた。彼は「役割も異なり、母親の役割も初めてだ。『私のおじさん』の演技は素晴らしかったが、現場でそのドラマを思い出したことはない」と否定した。

(写真提供=CJ ENM)イ・ジウン

映画は、ベイビーボックスに赤ちゃんを捨てる女性と、その赤ちゃんを不妊の夫婦に渡すブローカーの事情を穏やかに描き出し、是枝監督特有の“類似家族共同体”を論じる。しかし幼児の違法な養子縁組を扱ったという点で、カンヌ映画祭はもちろん、韓国でも社会的な議論をもたらした。

これに対して是枝監督は、「施設と養子縁組制度などを取材し、幼児遺棄に対する批判の矢がずっと母親に向いていると感じた。しかし取材過程で、その責任は母親ではなく社会にあると感じた」とし、「生命を肯定的に眺められるように映画を終わらせられればという強い確信ができた」と強調した。

韓国の資本で制作した映画として8番目にカンヌに参加した是枝監督は、現地で「CJの力をまともに感じた」と話して笑いを誘った。「カンヌの通りごとに『ベイビー・ブローカー』の看板がかかっていて、私が泊まっているホテルの前にも『ベイビー・ブローカー』の垂れ幕がかかっている様子を見て、多少プレッシャーを感じた」としながらも、「記念写真を撮った」と話した。

(写真提供=CJ ENM)是枝裕和監督

日本を代表する監督である彼は現在、日本映画の不振についても苦い意見と改善の方向を伝えた。

是枝監督は「才能のある創作者と俳優は多いが、制作環境とシステムがそのままなので新しい創作物が出にくい環境」とし、「韓国とフランスの制作システムを経た私が、日本映画の制作システムを改善するために努力する」と誓った。

是枝監督の映画『ベイビー・ブローカー』は、韓国で6月8日、日本では6月24日に公開予定だ。

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