「K-POPアイドル」という枠を超えた「グローバルアーティスト」として、今やその名前を見ない日はないというほど、人気を博しているBTS。そんな彼らもデビュー当時から順風満帆だったわけではない。
2013年6月13日、7人は防弾少年団としてデビューした。「10代・20代に向けられた偏見や抑圧から、防弾チョッキのように身を守る」という意味が込められた名の通り、主に若者の苦しみや葛藤、社会の不条理、人生や夢などをテーマにした楽曲で世界観を構築してきた。
“ヒップホップスタイルのアイドル”という新鮮なコンセプトや、アクロバティックなダンス、パワフルな覇気によって、その年の新人賞を総なめに。スタートこそ順調だったものの、その後は思うような結果が出せず、伸び悩み、しばらく低迷期に陥った。
大手芸能事務所に所属しているアイドルグループたちが活躍していた当時、Big Hitエンターテインメントという無名事務所の彼らに、業界関係者や一部のネットユーザーからは「どうせ消える」「すぐに忘れられる」といった非難が絶えなかったという。
しかし、2015年にリリースした3rdミニアルバム『花様年華 pt.1』が20万枚を売り上げ、韓国国内で大ヒットを果たす。前年にリリースした1stフルアルバム『DARK&WILD』の約10万枚と比較すると、2倍も増加しているのだ。この勢いは次作アルバムにも続いていく。まさに『花様年華』がBTSの人気を押し上げたと言っても過言ではないだろう。
では、BTSを語るうえで欠かせない「花様年華」とは、いったい何なのだろうか。
そもそも「花様年華」とは、2000年に制作されたウォン・カーウァイ監督のロマンス映画のタイトルだ。花のように「人生で最も美しい瞬間」を意味したこの言葉に、RMは「青春」という意味も付け足している。
『花様年華 pt.1』をはじめ、4thミニアルバム『花様年華 pt.2』、リパッケージアルバム『花様年華 Young Forever』の3作から成り立つ、「青春三部作」とも呼ばれる「花様年華シリーズ」は、今もなお根強い人気を誇る。ファンにとっては、いわば“伝説”のようなアルバムなのだ。
当時平均年齢20歳だった7人の少年たちが、大人へと成長していく過程は、「花様年華」が意味する「人生で最も美しい瞬間」そのもの。彼らが音楽を通じて、伝えるリアルな葛藤や苦悩は、聴く者の心に強く訴えかけた。
また、ファンをのめり込ませたのはその作り込まれたストーリーだ。『花様年華 pt.1』にも収録されている楽曲『I NEED YOU』以降のミュージックビデオは、ストーリー仕立てになっているものが多く、長いもので約12分と、その壮大な世界観に驚かされる。
大量の薬を飲むJ-HOPE、父親を刺してしまうV、さらには自殺をほのめかすメンバーなど、アイドルが扱うにはあまりにも暗く重いテーマに驚かされるが、心の傷やさまざまな問題を抱えた7人がもがきながらも成長していくというのが、「花様年華シリーズ」での大まかなストーリーだ。
7人は生きているのか、死んでいるのか、現実と非現実の境界線や、時系列がバラバラで謎が多いこのシリーズ。一度見ただけですべてを理解するのは難しい。
花様年華のストーリーをノベライズ化した『花様年華:The NOTES』、物語を簡潔にまとめたウェブトゥーン『花樣年華Pt.0<SAVE ME>』が公式から発表されているが、散りばめられた謎や伏線が数多く存在するため、今もなおファンの間では考察が繰り広げられている。
そして、「花様年華」のストーリーは次作アルバム『WINGS』率いる「WINGSシリーズ」へと続き、「LOVE YOURSELFシリーズ」「MAP OF THE SOULシリーズ」と続いていく。
多くのファンを虜にし、BTSの人気を押し上げた「花様年華」だが、最近になって再び注目を集めている。
話題を呼んでいるのは、10月15日に公開された『BTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE』のティーザー映像。ファンが注目したのは、JUNG KOOKとV、RMがビリヤードを楽しむ冒頭部分で、RMが口に含んでいた棒付きキャンディをコップの中に入れるシーンだ。実はこの部分、「花様年華シリーズ」楽曲の『RUN』ミュージックビデオの中で、同じ仕草をするRMが描かれているのだ。この姿に反応したファンが続出し、瞬く間にTwitterのトレンドワードに「花様年華」が浮上したというわけだ。
このように6年経った現在も、BTSのミュージックビデオやショートフィルムなどに度々登場し、ファンの好奇心を刺激しながらも君臨し続ける「花様年華」。だが、特別に思うのはファンだけではない。
JUNG KOOKの右肘に「花様年華」の4文字のタトゥーが入っているのは、ファンの間では有名な話。彼にとっても相当思い入れがあることがうかがえる。
また今年6月、BTS公式YouTubeチャンネル『BANGTANTV』を通じて公開された「2021FESTA BTS ARMY 万物商店」という動画の中では、JIMINが「花様年華時代、僕はそのコンセプトに完全に入り込んでいた。周りが見えなくなるくらい完全に没入してた」と語ったほど。BTSメンバーも「花様年華」の持つ魅力にどっぷりとハマっていたというわけだ。
BTSメンバーも制作に携わった、「花様年華シリーズ」の楽曲『EPILOGUE:Young Forever』の歌詞にもこんな一節がある。
「完璧な世界は存在しないと自分自身に語る」
「いつまでも僕のものにはできない 大きな拍手喝采」
「僕は永遠に少年でいたい」
BTSの青春はまだ終わっていない。彼らは今まさに「人生で最も美しい瞬間」を駆け抜けている最中だ。「花様年華」を体現しながら生きていく彼らの活躍が輝けば輝くほど、飛躍のきっかけとなった「花様年華」は伝説として、7人、そしてファンの胸に深く刻み込まれるだろう。
(文=新井いるる)
前へ
次へ