FC東京にやってきた韓国の有望株ナ・サンホの「Jリーグ生活」とは?

今季から外国籍選手枠を広げ、イニエスタやビジャに次ぐ大物選手の来日の噂か絶えないJリーグ。J1(1部リーグ)を皮切りに、J2(2部リーグ)、J3(3部リーグ)の全54チームがしのぎを削り合っているが、そのJリーグ(1~3部)に韓国の選手がどれほどいるかご存知だろうか。

Jリーグがシーズン開幕前の2月1日に発表した今季の登録選手の概要によれば、その数は実に42人。毎年のように韓国に戻っていく選手もおり、彼らがどうしているかも気になるところでもあるが、今季も新たなコリアンJリーガーが誕生しているのだ。

(参考記事:今だからこそ知りたい!! 韓国人Jリーガー、あの人たちは“いま”

今季からFC東京の一員となったナ・サンホも、そのひとりだ。

1996年8月12日生まれの22歳。昨季所属した光州(クァンジュ)FCでは、K2リーグ(2部リーグ)ながら16得点5アシストを記録する大活躍で、K2リーグの得点王、ベストイレブン、MVPの3冠に輝いた逸材だ。昨季終了後には、Kリーグの常勝軍団である全北現代への移籍も噂された。

昨年はソン・フンミンやファン・ウィジョとともにアジア大会で金メダルに輝き、秋には韓国代表にも抜擢。アジアカップは大会直前のケガでエントリーから外れたが、3月のAマッチ2試合にも出場した。

アジア大会で韓国の金メダル獲得に貢献したナ・サンホ

そんな彼がなぜ、JリーグのFC東京を選んだのか。

「Kリーグの複数のクラブから良いオファーをいただきましたが、海外でプレーすることが目標でした。異国の地に身を置くことでもっと強くなりたい、成長したいと思った。ヨーロッパ進出が最大の目標でしたが、諸事情でなかなか話もまとまらず。そんななか、熱心にオファーをくれたのがFC東京でした」

JリーグやFC東京に関する知識はあまりなかった。光州時代にJリーグのクラブと対戦したのは、高知キャンプでアルビレックス新潟と練習試合をしたのみ。

「ただ、代表合宿で神戸の(キム・)スンギュ選手やガンバ大阪の(ファン・)ウジョ選手などにJリーグについていろいろと尋ね、FC東京についても教えてもらいました。FC東京ではチャン・ヒョンス選手やユ・インス選手など、韓国の先輩たちがいろいろと面倒を見てくれるので助かっています。

チャン・ヒョンス選手は見るからにカリスマ性にあふれ見た目も怖かったので(笑)、“厳しい人なんだろうなぁ”と思っていたら、とても気さくで面倒見も良くて、東京で一人暮らしする僕のことを何かと気にかけてくれています」

韓国の選手たちだけではない。同世代の渡辺剛や小川諒也とはすぐに意気投合し、身振り手振りでコミュケーションを取っているという。言葉が通じないときは、かつてKリーグのFCソウルで活躍し、日本人選手として初めて韓国FAカップMVPにも輝いた高萩洋次郎が間に入ってくれるという。

「マエ、ウシロ、ミギ、ヒダリ、“ナカヲキレ”といったピッチの中での日本語から“キョウハナニシマスカ”といった日常会話まで、高萩選手から学びました。学ぶという点でいうと、ディエゴ・オリヴェイラ選手の突破力や決定力の高さなど、練習でも学べることが多い。イニエスタ選手やビジャ選手と対戦できるヴィッセル神戸戦なども今から楽しみです」

ただ、そのためにもFC東京で確固たるポジションを確保する必要があると自覚している。5月9日現在、リーグ戦6試合、カップ戦5試合に出場しているが、先発出場はカップ戦のみでリーグ戦ではまだ交代要員だ。「長谷川監督の信頼をまだ勝ち取れていないからだと思う」と謙遜する。

「長谷川監督はカリスマ性があり、チーム全体のマネジメントにとても長けた監督だと思います。監督から指示されているのは、ポジショニング。守備時はもちろん、攻撃時もポジション取りに関して細かく指導されています。

僕は攻撃的趣向が強すぎて前に前にと出てしまうのですが、監督からは“あまりFWに近づかず適度な距離感を保つように”と指示されています。チーム全体のバランスを崩さずに、自分の持ち味を出せるようにしなければいけません」

韓国時代はドリブル突破や相手ディフェンスラインの裏に飛び出すラインブレイクの動きに定評があった。その嗅覚の鋭さは、イ・グノを彷彿させるとされており、独特のテンポで放つシュートと決定力の高さは「アン・ジョンファンのようだ」と評されたこともある。

「Kリーグはフィジカルが強くプレッシングも激しいですが、それをかわせばスペースが広がるし、 中学・高校時代から“DFとの駆け引きで勝敗を分けるのはテンポだ”と教わり意識してきました。そうした自分の長所を、東京というチームの中にもしっかり溶け込ませたい。

そのためにもまず、チームメイトとの意思疎通が大切だと思います。コミュニケーションがサッカーをよりスムーズにさせますから」

そのために練習が終わると、日本語の勉強に多くの時間を費やしているという。自炊をしている一人暮らしの部屋ではテレビをつけて日本語を耳に馴染ませ、時間があれば近所のカフェでマンツーマンの会話レッスンを受けているというから熱心だ。

「よくある韓国人留学生の日本語レッスンのようなもので、誰も僕に気づかない。まさかJリーガーがカフェで日本語の勉強をしているとは思わないでしょう。少しでも日本語が上達するように、家でも予習と復習ばかりしています」

かつてJリーグで活躍してやがてマンチェスター・ユナイテッドの主力にまで成長したパク・チソンも、京都サンガ1年目は自炊生活を送りながら日本語の勉強に没頭していたが、ナ・サンホも勤勉で努力を怠らない性格のようだ。

「やはり早くJリーグで結果を残したいです。Jリーグに来て、驚き嬉しかったことのひとつに、FC東京のファン、サポーターのみなさんが僕の応援歌を作ってくれたことなんです。サポーターのみなさんがせっかく作ってくれた応援歌を、たくさん聴きたい。誇らしく歌ってもらえるようにチームの勝利に貢献したいですね」

勤勉で献身的で、感謝の心を忘れない若きコリアンJリーガー。5月9日現在、まだJリーグで決めたゴールは1得点のみだが、その名前は今から覚えておいたほうがよさそうだ。

(文=慎 武宏)

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