照明が落ちた会場にピンライトが照らされ、幅2m、長さ14mのピストを光らせる。その上に白いユニホームを着て、黒いマスクを小脇にかかえた剣客が入場する。
フェンシングを一度でも生で観戦した人であれば、誰もが神秘的で優雅な姿に目を奪われる。フェンシング人口が韓国で急速に増加している理由も、「美しく高級感のある個人種目」というイメージのおかげだ。
去る4月28日に幕を下ろした国際フェンシング連盟「2019ソウルSKテレコムグランプリ大会」で韓国は、オ・サンウクとキム・ジョンファンが男子個人戦で金、銅メダルを獲得した。女子ではキム・ジヨンとソ・ジヨンが銀、銅メダルに輝いた。
男女ともにメダルを獲得したのは、SKテレコムグランプリがフルーレからサーブルに変わった2015年以降、初めてのことだ。キム・ジョンファンは2017年の金、2018年の銀メダルに続き、今年銅メダルを獲得し、すべての種類のメダルを獲得した初の韓国人選手となった。
興味深いのは、韓国代表クラスのフェンシング選手が試合を行った時間よりも、ファンとの写真撮影やサインをする時間のほうが長かったことだ。それほど韓国でフェンシング人気が高まっていることを意味している。
そもそも韓国フェンシングが国際大会で好成績を残したのは、昨日今日に始まったことではない。男子サーブル代表チームは、世界ランキング1位を守っており、フルーレやエペなど種目、男女を問わず、世界的な技量を誇っている。
2012年のロンドン五輪で“座り込み抗議”を行ったシン・アラム、韓国フェンシング史上初の女子サーブル個人で金メダルを獲得したキム・ジヨン、2016年リオデジャネイロ五輪の男子エペ個人で金メダルに輝いたパク・サンヨンなど、枚挙に暇がないほどだ。
韓国フェンシング協会オ・ワングン事務処長は、2000年代後半から韓国フェンシングが急成長を遂げた秘訣について、「メインスポンサーであるSKネットワークスの全面的な支援と合理的な協会運営方式、関係者の協力が調和したおかげ」と分析した。
特にSKグループがメインスポンサーを務めてから、国際競争力向上のための中長期計画を策定し、それを土台に韓国代表をサポートするための“ドリームチーム”を構成するなど、全面的なバックアップを受けている。
ドリームチームは男女3種目48人の選手とコーチ6人のほか、医務トレーナー3人、ビデオ分析を含む戦力分析官2人、SKスポーツ団と協会職員、体育科学研究院の専門家、代表チーム全体を統括する総監督まで、アマチュア種目では珍しい規模で設けられた。
オ事務処長は「2009年に会長に就任したソン・ギルスン前SKテレコム名誉会長が“自分たちだけの技術があれば、世界の舞台で失敗することはない”という原則を立て、技術の向上に邁進した成果が出ている」と説明した。
欧州の選手に比べて相対的に背丈は低く小さいが、手技とスピードに優れた韓国人の特性を生かし、“足フェンシング”を本格化したことが国際競争力につながった。
そのおかげで最近は、フェンシング大国ロシアからも技術交流の要請があるなど、グローバルスタンダードとして認められている。日本と中国はもちろんベトナム、フィリピン、インドネシア、アラブ首長国連邦、ヨルダンなど、アジア各国のフェンシング協会からコーチ派遣の要請が来るほどだ。
オ事務処長は「短期間に技量が急成長すると、韓国国内のフェンシング人口も急激に増加した。国内需要も増えたことで、指導者が不足している。すでに多くのコーチがアジア各国でフェンシングのレベル向上に寄与している」と述べた。
韓国フェンシング協会のチェ・シンウォン会長がアジアフェンシング連盟副会長に選任され、「アジアフェンシングがともに世界レベルに飛躍しなければならない」と強調したことで、指導者の育成と国際審判の養成のための努力も始まっている。
“フェンシング・コリア”がひとつの名詞のようになり、フェンシングを楽しむ人も増加傾向にある。