インフラの改善や、新球場の建設は当然のことだが、それ以前に韓国プロ野球を通じて毎年数百億ウォンを得ている"ソウル市自体”を見直す必要があるようだ。
球場の整備が遅れているとはいえ、社稷(サジク)球場や大田(テジョン)球場はまだマシだ。LGツインズ、斗山(トゥサン)ベアーズの2球団がホームスタジアムとして活用しているソウルの蚕室(チャムシル)球場に関しては、実質的な“球場オーナー”であるソウル市の公明正大な政策が要求されている。
4月7日にソウル市長の補欠選挙を控え、韓国では毎度のように華やかなマニフェストが飛び交っている。さらに、「共に民主党」のパク・ヨンソン候補、「国民の力」のオ・セフン候補たちは、いずれも韓国野球委員会(KBO)が要望した野球に関するインフラ改善に明確な立場を示した。
両候補は、「蚕室球場の新設推進計画を早期に樹立し、商業広告権についても合理的な解決策を用意する」と強調。さらに、パク・ヨンソン候補は蚕室球場のビジター用ロッカールームとシャワー室の拡充を、オ・セフン候補は最新施設のみならずトレンドの変化に備える方向も検討するという意志を示した。
しかし、蚕室球場のインフラ改善と新球場建設は決して容易ではない。そもそも、現在の蚕室球場にはインフラを改善するスペースがないため、物理的に不可能なのだ。
球場の一塁側には斗山(トゥサン)ベアーズ、三塁側にはLGツインズのロッカールームやクラブハウス施設、球団事務所が設置された状態なので、余裕が全くない。
三塁側ベンチの後ろにある小さなビジター用ロッカールームを“少しだけ”補修することは可能かもしれないが、ロッカールームを拡張してシャワー室を設けるといった大幅な改善は実質不可能だ。結局、ビジターチーム用のインフラ改善方法は、新球場の建設しかないのだ。
そして、新球場の建設よりも、商業広告の収益分配を再度確認しなければならない。この問題が解決されない限り、新球場を作ってもLGツインズと斗山ベアーズは不公平な契約に縛られ続けるからだ。
2020年の蚕室球場の広告収益は172億ウォン(約17億2000万円)だった。同年に行われた公開競争入札で、とある経済メディアが2020年から2022年までの3年間、年間172億ウォンで広告権を獲得することが決まった。年間広告収益として172億ウォンが策定されたが、LGツインズと斗山ベアーズに残った金額はわずか7億5000万ウォン(約7500万円)とのことだ。
内訳はこのようになっている。広告収益172億ウォンのうち127億ウォン(約12億7000万円)を、ソウル市が「韓国のスポーツ発展」という名目で得ている。
残った45億ウォン(約4億5000万円)をLGツインズと斗山ベアーズで折半するのだが、両球団は球団使用料として毎年、ソウル市に計30億ウォン(約3億円)を納付しているそうだ。
広告収益45億ウォンのうち30億ウォンが差っ引かれることとなり、球団の広告収益は15億ウォン(約1億5000万円)、両球団にそれぞれ入る収益は7億5000万ウォンほどの額となる。
両球団が6~7ヵ月間にわたって野球をしたおかげで、172億ウォンもの広告収益を上げたのに、いざ球団が持っていくお金は全体金額の5%程となっている。プロ野球興行のおかげで発生した172億ウォンの広告収益の大部分は、ソウル市が手にしているのだ。
大金を懐に納めているのにもかかわらず、ソウル市による球場への投資はお粗末なものだ。蚕室球場への投資は、シーズン開始前に壊れた観客席の椅子の交換や、椅子の色の変更などにとどまっている。特徴的なものは昨年やっと導入された大型放水砲くらいだ。ソウル市は127億ウォンの使途内訳を明らかにする必要があるとされている。
もちろん、LGツインズと斗山ベアーズは、広告収益だけで収入を得ているわけではない。 新型コロナ禍以前の両チームは、チケットとグッズ販売で年間150億ウォン(約15億円)程度の収益を上げていた。
しかし、球団の運営費用は450億ウォン(約45億円)程度かかると言われており、リーグの中継権販売やスポンサー契約、アパレル業者との契約などで、約100億ウォン(約10億円)を得ても、単純に200億ウォン(約20億円)の赤字となる。
特に、昨年は事実上の無観客状態でペナントレースを行ったため、チケットやグッズの販売収益が急落していた。
新球場建設は様々な難題を解決する万能策となりうる。LGツインズと斗山ベアーズも新球場建設には賛成しているそうだ。そのためには、不公平な広告収益問題をまず解決しなければならない。
新球場移転後も不公平な契約が続くのであれば、両球団の黒字経営、または球団運用を通じた産業化は永遠にたどり着けない未来だ。
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