かつて日本で活躍した“韓国人Jリーガー”は、今どこで何をしているのだろうか。
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1993年のJリーグ開幕以降、日本では多くの韓国人選手がプレーしてきた。2008年にアジア枠が設けられてからはその数もさらに増加。その系譜は今も続いているが、気になるのは“彼らのその後”だ。
特に、Kリーグでは多くのクラブでJリーグ経験者が今もプレーを続けている。日本を離れた後の活躍ぶりが気になる日本のサッカーファンは多いはずだ。
今回は、かつての湘南ベルマーレを支えた“タックルマシーン”ことハン・グギョンの現在を紹介しよう。
“湘南の心臓”。Jリーグ時代のハン・グギョンはそんなキャッチフレーズがよく似合う選手だった。
韓国大学サッカー界の強豪・崇実(スンシル)大学では攻撃的MFして活躍していたが、大学を中退して2010年に湘南ベルマーレに加入した当時19歳のハン・グギョンは、チームを率いていた反町康治監督による“コンバート”で、その才能を大いに開花させた。
ボランチやアンカーといった低い位置で起用されると、持ち前の運動量を生かして労を惜しまずピッチを駆け回り、気づくとチームに欠かせない存在になっていた。
球際の激しさと容赦ないボール奪取能力から“タックルマシーン”と言われることもあったが、そのプレーでチームを鼓舞する“湘南の心臓”だった。
個人的な目標として定めていた2012年ロンドン五輪出場は大会直前の負傷離脱で叶わなかったが、シーズン終盤には復帰して湘南のJ1昇格にも貢献している。
2013年シーズン終了後に湘南を離れるまでの4年間、ハン・グギョンは計106試合(J1で49試合、J2で57試合)に出場。退団から長い月日が流れた今も湘南サポーターたちの記憶に残る選手のひとりとして挙げられているのも、そのひたむきな激しさがあったからだろう。
ただ、湘南を旅立って以降は苦しい戦いが続いた。
2014年から柏レイソルでプレーし、韓国代表としてブラジル・ワールドカップに出場したが、初の大舞台で味わったのは0勝2敗1分けの挫折。ワールドカップ後の2014年8月からはカタールリーグへ移籍し、カタールSCやアル・ガラファでプレーしたが、選手として大きな成功を手にするほどまでは至らなかった。
そんな流れを変えようと2017年7月にKリーグの江原(カンウォン)FCの門を叩く。1年契約だったが、満を持してのKリーグ挑戦だった。
ところが、そのKリーグで選手生命最大の危機が訪れる。
母国復帰からわずか2カ月後の2017年9月、左ひざの十字じん帯破裂という重傷を負ってしまったのだ。シーズン中はそれでも痛みに耐えながら最終戦まで戦い抜いたが、終了後の12月にじん帯を移植する手術を受け、長いリハビリ生活を余儀なくされた。
しかも、前述した通り、江原FCとは1年契約。それは兵役義務遂行のために翌シーズンから国軍体育部隊の尚州尚武(サンジュ・サンム)FCに加入するための処置でもあったのだが、ケガもあって尚武入隊も白紙に。ケガを負い所属先も失ったハン・グギョンは、選手として脂の乗り切った27歳にして突如キャリア存続の危機に立たされてしまったのだ。
そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、一度は契約を満了したはずの江原FCだった。
2018年2月末、江原FCはリハビリ中のハン・グギョンと再契約を結ぶことを発表。再契約の理由を次のように伝えている。
「ハン・グギョンを助けるという決断を下すことに大きな悩みは無く、当然のことだと考えた。韓国代表や所属チームで献身的に活躍した選手を、契約終了や負傷という理由だけで切り捨てるわけにはいかない。簡単に目を背けてはならないと思い、プロサッカークラブが持つべき倫理的責任だと判断してハン・グギョンと再契約するに至った」
2018年シーズン、ハン・グギョンの出場時間は“ゼロ”だった。それでもハン・グギョン復活の日をひたすら待ち続けた江原FC。その信頼と期待に応えようとハン・グギョンもリハビリを諦めず、希望も捨てなかった。
そして迎えた2019年シーズン、開幕節の尚州尚武FC戦でハン・グギョンは実に15カ月ぶりとなる実戦復帰を果たす。
「リハビリは本当に大変だった。毎日同じ日常を一人で消化しなければならず、未来に対する不安が大きかった。ただ、復帰を諦めたくなかった。僕を待ってくれたチームのために、これからはケガなくプレーして貢献したい」
リハビリ中の苦痛と復帰の喜びをそう打ち明けたハン・グギョン。その言葉通り、2019年シーズンは全試合フル出場。Kリーグ全体としてもトップに立つ出場時間3675分を記録。大ケガから復帰した直後の選手とは思えない“鉄人”ぶりを見せつけた。
活躍はそれだけにとどまらない。チームを率いるキム・ビョンス監督が標榜するパスサッカーの中核を担い、守備だけではなく攻撃的な役割も任された。パス回数はリーグ全体1位の2922回で、成功率も驚異の92%。ケガからの完全復活を告げるとともに、MFとしてさらに成熟した姿を披露した。
ハン・グギョンは2020年シーズンも、江原FCの攻撃の要として活躍している。開幕から第5節終了時点まで全試合に先発フル出場し、1アシストを記録。3センターのアンカーや2ボランチの一角を担い、中盤から効果的なパスを供給し続けているのだ。
江原FCのサポーターからも愛されているようで、マーキング付きユニホームの売り上げ枚数がチーム内で最も多い。開幕前に各クラブが予想したMVP候補のひとりにも選ばれるなど、Kリーグ関係者からの評価も高い。
今季は2010年のプロデビューから数えて10年目。Jリーグでその才能を開花させ、選手生活を脅かしたケガという試練も乗り越えた今、ハン・グギョンは第2の全盛期を迎えようとしている。
それだけに次に期待したくなるのは、2017年6月以降遠ざかっている韓国代表への復帰だろう。
“タックルマシーン”の異名を持ったJリーグ時代から、今では“江原の心臓”と呼ばれるプレーメイカーへと変貌したハン・グギョン。今度は“韓国代表の心臓”として激しく鼓動する日が来ることを期待したい。
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