浮き球を丁寧に胸トラップし、左足で冷静かつ強力なフィニッシュ。
かつて2018シーズンに湘南ベルマーレでプレーしたFWイ・ジョンヒョプ(28・釜山アイパーク)が、“意義ある”今シーズン初ゴールを決めた。
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去る5月24日に蔚山文殊サッカー競技場で行われたKリーグ1(1部)第3節の蔚山現代FC対釜山アイパーク戦、イ・ジョンヒョプは後半9分に先制点を挙げる活躍を披露した。試合にもフル出場している。
その後は同点に追いつかれ、1-1のドローで試合を終えたものの、イ・チョンヨン(31)らトッププレイヤー擁する蔚山現代相手に昇格組の釜山はアウェーで善戦。
今シーズンは開幕から負けが続いていただけに、貴重な勝ち点1獲得となった。
蔚山現代相手に今シーズン初ゴールを決めたイ・ジョンヒョプだが、1部での得点は実に“1342日ぶり”だという。
前回決めたゴールは3年以上も前の2016年9月21日。奇しくも、当時イ・ジョンヒョプは蔚山現代でプレーしていて、ゴールを決めたのも今回と同じ蔚山文殊サッカー競技場だった。
そんなイ・ジョンヒョプの“1部復帰弾”だが、得点に至るまでの完成度は高いものだった。
前線に張っていたイ・ジョンヒョプは、中盤でキム・ビョンオ(30)が突破したのを見て動き出し、一瞬で相手DFのマークを振り切ってゴール前に走りこむ。
それに呼応するかのようにキム・ビョンオから送られたロビングパスをしっかりと胸でトラップすると、最後は左足で素早く蹴りこみゴールネットを揺らした。
技術面よりも前線から運動量や闘志あふれるプレーが注目されるイ・ジョンヒョプだが、今回ばかりは華麗なプレーで輝きを見せた。
本紙『スポーツソウル』との電話インタビューに応じたイ・ジョンヒョプは、「僕も驚いた。本当はビョンオ兄さんが突破できるようスペースを作るつもりだったが、タイミング良く来たパスを本能的に受け、最後シュートを放った。芝に水気があってトラップミスしないか心配したが、ちょうど望んだ位置に落ちて素早くシュートに持ち込むことができた」と振り返った。
そして、「ゴールはたくさん決めてきたけど、今回のが生涯最高のゴールと言えるだろう。一番かっこよかったと自信を持って言える」と自身のゴールを称賛している。
イ・ジョンヒョプはなぜ、蔚山現代戦のゴールを“生涯最高のゴール”と話したのか。その裏には、ここまで彼自身が歩んできた苦しい道のりがあった。
釜山が2部で昇格争いを繰り広げていた昨シーズン、イ・ジョンヒョプは鼠蹊部周辺に痛みを感じるグロインペイン症候群(スポーツヘルニア)に苦しめられていた。
それでも痛みをこらえて戦い抜き、チームは最終的に2位でシーズンを終えて2015シーズン以来となる1部復帰に成功したが、イ・ジョンヒョプには試練が待ち受けていた。
今年1月、イ・ジョンヒョプはタイでの合宿トレーニング中に負傷箇所を悪化させてしまった。
トレーニングからの離脱を余儀なくされたイ・ジョンヒョプは、手術を受けるためにドイツへ渡り、その後は日本や韓国で厳しいリハビリをこなした。その間、“夢の舞台で自分はプレーできないかもしれない”という危機感が彼を襲っていた。
湘南時代には右足関節内果疲労骨折で3カ月間チームを離れたこともあったが、今回のリハビリ期間はイ・ジョンヒョプのサッカー人生の中でも特に辛いものだった。
本人も「手術後も痛みがずっと残っていて、(手術が)上手くいかなかったのではないかと心配もした。辛いリハビリでストレスもたくさん感じた。心の中では、1年間を棒に振ってしまうのではないかと恐れる気持ちもあった」と当時の素直な心境を告白している。
それでも、イ・ジョンヒョプは懸命なリハビリの甲斐あって4月初旬にチームに復帰。
「チームには申し訳ない思いもあったが、(今回のゴールで)何とか手助けできて心が軽い。家族が特に喜んでくれた。苦しんでいる姿を常に横で見守ってくれたからだ」と、自身を支えてくれた家族やチームメイトに感謝を述べた。
蔚山現代相手の引き分けに、イ・ジョンヒョプは「足にけいれんが来たけど、一生懸命頑張っている他のチームメイトに辛い思いをさせたくなかった。やりがいはある。蔚山現代戦を上手く戦えたから、他のチーム相手にも通用するという自信ができた。今回の引き分けはただの勝ち点1以上に大きな意味がある」と満足感を示す。
蔚山現代戦にはサッカー韓国代表のパウロ・ベント監督が視察で訪れていた。ベント監督も、イ・ジョンヒョプの活躍をハッキリと見守ったことだろう。
イ・ジョンヒョプは昨年12月のE-1サッカー選手権にも招集され、日本との決勝戦にも出場していた。
代表に関して、イ・ジョンヒョプ「代表は常にパフォーマンスが優れてこそ行けるところだ。ただでは帰れない。もちろん代表に選ばれたら嬉しいが、それよりも僕はチームで頑張ることが先だ」と話す。
その言葉には、“釜山の1部残留のためにクラブで活躍することが自身の明確な最優先課題だ"という彼の断固たる決意がうかがえる。
釜山を指揮するチョ・ドクチェ監督は、蔚山現代戦が復帰後初の先発出場となったイ・ジョンヒョプのコンディションを考慮し、前半終了後のハーフタイムで彼を交代させる予定だった。
だが、イ・ジョンヒョプは“もっとプレーする”という熱い意思を示し、後半もピッチに立ち続けた。
その強い闘志が後半のゴールに結実し、チームに確かな勢いをもたらしたことは間違いない。
ケガに苦しんだ時期を乗り越え、1部の舞台で完全復活した姿を披露したイ・ジョンヒョプ。今後も彼の活躍に期待したいところだ。
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