サッカー日本代表と対戦する北朝鮮代表のシン・ヨンナム監督は、現役時代に複数のJリーガーと“共闘”した人物だ。
3月20日、国立競技場で行われた北朝鮮代表の前日会見にはシン・ヨンナム監督が出席。21日に行われる日本代表との北中米W杯アジア2次予選に向けてコメントをしていたなか、会見に参加した元北朝鮮代表FWの鄭大世氏が指揮官にこのような質問をした。
「2010年W杯を基点に、16年ぶりのW杯に挑戦することになる状況ですが、2010年W杯当時のメンバーと現在とでどんな違いがあるのか、また進化した点や良くなった点を教えてください」
鄭大世氏が言及した2010年の南アフリカW杯は、まさに自身が北朝鮮代表の一員として出場した大会だ。
当時、44年ぶりのW杯出場を決めた北朝鮮代表は本大会でブラジル、ポルトガル、コートジボワールと同組に入った。
各大陸の強豪が集うグループで結果は3戦全敗の最下位だったが、初戦ではブラジル相手に1-2と善戦。鄭大世氏もこの試合で、北朝鮮代表の大会唯一となる得点をアシストしている。
同大会では鄭大世氏のほか、もう一人の在日コリアン選手である安英学氏や、ロシアのロストフに在籍したストライカーのホン・ヨンジョなども名を連ねていた。その当時と現在の比較というシンプルな問いかけだったわけだが、シン・ヨンナム監督は次のように答えた。
「2010年からもう多くの歳月が流れ、選手たちもたくさん入れ替わりました。入れ替わりましたが、現在の我々の選手たちは当時よりも一生懸命努力して、あの頃よりもすべての面で上回っているので、監督としても非常に期待をかけています」
「一生懸命」や「すべて」など、要所要所の言葉は強調しているようにも聞こえた。2010年W杯を経験した鄭大世氏に対し、指揮官は当時より「すべてで上回っている」と、自身が率いる現在にチームに強い自信を持っていた。
そんなやり取りがあった鄭大世氏とシン・ヨンナム監督だが、2人はかつて現役時代に代表チームメイトだった間柄だ。
シン・ヨンナム監督は1978年1月生まれの46歳で、鄭大世氏の6歳年上。現役時代のポジションは中盤で、代表ではドイツW杯アジア1次予選が行われた2004年頃からプレーした。
そのなかで、鄭大世氏が北朝鮮代表に初招集された2007年の東アジア選手権(現E-1選手権)予選にもシン・ヨンナム監督は出場。
鄭大世氏はデビュー戦となった同年6月19日のモンゴル代表戦で4得点を記録し、チームを7-0の大勝に導いているが、鄭大世氏以外にゴールを決めたうちの一人がシン・ヨンナム監督だった。
ちなみに、シン・ヨンナム監督は選手として、鄭大世氏だけでなく安英学氏や李漢宰氏、梁勇基氏など多くの在日コリアンJリーガーと一緒にプレーをした。ただ、日本代表とは一度も対戦経験がなく、2010年の南アフリカW杯でも23人のメンバーから外れていた。
そんなシン・ヨンナム監督が今回、かつてのチームメイトが生まれ育った日本の地で、指揮官として日本代表と相対する。試合ではどんな采配を見せてくれるのかにも注目したいところだ。
(取材・文=姜亨起/ピッチコミュニケーションズ)
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