気になって旧知の間柄であるスポーツ新聞のデスクや部長級に昇進した先輩記者に尋ねてみると、最近、韓国では新聞メディアを取り巻く状況がますます厳しさを増しているという。大手一般紙の専任記者(編集委員のようなもの)も嘆いていた。
「企業や宅配の定期購読は落ちていないが、地下鉄の車内で新聞を読んでいる人はゼロに等しい。かつては新聞を販売していたコンビニでも新聞を扱う場所は少なくなり、駅の売店でも見かけなくなった。人々の関心は多様化してニュースの需要は増えているのに、紙の新聞は読まれなくなった」
実際に、韓国ABC(Audit Bureau of Circulations)協会が12月6日に発表した「2019年度(2018年分)全国日刊紙発行・有料部数認定結果」によると、韓国の日刊紙174社が発行した新聞部数は938万6408部で、前年比(2017年度)26万4379部(2.75%)も少なかったという。
2015年と比べると5%、2010年と比べると26.6%も落ち込んでいるというだから、韓国でも“新聞離れ”に歯止めがかからないのがわかる。
そんななかでも特に顕著なのが、スポーツ新聞の部数低下だという。
韓国には現在、1969年発刊の『日刊(イルガン)スポーツ』、1985年発刊の『スポーツソウル』、1990年発刊の『スポーツ朝鮮(チョソン)』、2004年発刊の『スポーツ京郷(キョンヒャン)』、2005年発刊の『スポーツワールド』、2008年発刊の『スポーツ東亜(トンア)』、2015年発刊の『韓国スポーツ経済』など、7つのスポーツ新聞がある。
その7紙合計の2019年度発行部数は、52万5119部。かつてスポーツ新聞全盛期は1社で60~70万部を発行するところもあったが、現在は7社合計でも60万部に届かない状況だというのだ。
ちなみに『スポーツ韓国(ハングッ)』や『MKスポーツ』というものもあるが、紙の新聞は発行していないインターネット・メディア。『MKスポーツ』は毎日経済新聞が母体で、『もっと!コリア』のメディア名で日本展開もしている。
インターネットでの日本語版展開という点ではそのほか、『イルガン・スポーツ』が中央日報日本語版に、『スポーツ朝鮮』が朝鮮日報日本語版に、『スポーツ東亜』が東亜日報日本語版に記事提供しており、韓国スポーツ新聞協会の会長社である『スポーツソウル』の場合は、昨年10月から日本語版を展開している。
韓国のスポーツや芸能関連のニュースが日本でも需要があるためだが、肝心の紙新聞の部数と売上が落ち込めばそういった海外展開にも影響が出てくる可能性がある。
いずれにしても、韓国でも今、新聞メディアの存在意義が問われているのは間違いない。
ライフスタイルの変化によってニュースに触れるのは紙の新聞ではなく、スマートフォンなどのモバイル端末という人が増加したことで、新聞のあり方も変わりつつある。
ただ、今年6月に韓国ABC協会が実施した調査によると、「韓国国民の54%が新聞メディアのニュース報道を信頼している」という結果も出ている。フェイクニュースやまとめ記事、「引用」の許容範囲を超えた無断翻訳や2次利用が横行している昨今だからこそ、新聞メディアの役割も重要になってくる。
冒頭で紹介した授賞式に価値と権威があるのも、新聞メディアが主催しているからでもある。日本でもオールドメディア、レガシーメディアと呼ばれる新聞だが、このまま衰退していくのは惜しい。
(文=慎 武宏)