かつて2014~2015年に阪神タイガースで活躍したクローザーのオ・スンファン。
重みのあるストレートは“石直球”と呼ばれ、喜怒哀楽を常に同じ表情で表すことから“石仏”という異名も持っていた彼は現在、韓国プロ野球KBOリーグのサムスン・ライオンズで“最後の大将”として活躍を続けている。
そんなオ・スンファンは、今年7月に40歳の誕生日を迎えるにあたり、自分の中のとある考えを変えた。これまでは「超」が付くほどの“トレーニングマシン”と呼ばれる練習の虫だったが、今年は練習量を減らしたという。
いわば自身の“ルーティン”を大きく変えることになっただけに、その決断は簡単ではなかったはずだ。2月17日、春季キャンプ地の大邱(テグ)サムスン・ライオンズ・パークで本紙『スポーツソウル』のインタビューに応じたオ・スンファンが、決断を下した経緯を明かしてくれた。
「これまでのキャンプとは異なる方法を取り入れた。トレーニングに対するストレスを和らげようとした」というオ・スンファン。「今のところはポジティブな面が多い。それに、(練習量)減らしたといってもやるべきことはやっている」と満足感を示す。
「アスリートであれば皆同じだろう。例えコンディションが良くない日であっても、体を動かさないと安心感が生まれない。しないと不安になってメンタルに影響が出る。すべての選手に対する宿題と言えば良いだろう。自分もそうだった。以前はチームで定められたスケジュールのほかに、個人でさらにトレーニングをしていた。ただ、今年はトレーニングパートナーの話をよく聞いている。これまで個人練習を10回やっていたとすれば、今年は半分の5回だけだ」
オ・スンファンの練習量の多さは韓国プロ野球界でも広く知られている。特に、誠実さと自己管理においては他の追随を許さないほどで、チームメイトも舌を巻いている。
こうした努力があったからこそ、オ・スンファンは“不惑”の年でも鋼の体を維持し続けている。昨季には44セーブでセーブ王に輝き、韓国プロ野球史上最年長で40セーブを達成した。もちろん、今季もサムスンのブルペンの中核にいることは間違いない。
そんなオ・スンファンが、「もっと練習しなければ」という誘惑を振り切った。1982年生まれのオ・スンファンは直に40代に突入する。例え天下のオ・スンファンでもこの部分は無視できない。いつもやっていたトレーニングも、ある瞬間から“酷使”になってしまうかもしれない。この点を知っているからこそ、自分で自分を管理することを決めた。
「最も重要な目標は常にチームの勝利。次に負傷だ。(練習量を減らすことが)負傷しないために最善な方法だと考えた。体に疲労感を与えるトレーニングよりはましだと判断した。簡単ではなかったが、結果的に今は自然なものになった」
「結局のところ、度が過ぎてしまえば副作用が生じるものだ。今の私が20代の頃にやっていたトレーニングをしたからといって、球速が5キロ速くなるわけでもない。状況に合わせて、年齢に合わせて変えていっている。キャンプ開始から2週間が経ったが、思ったより体の調子は問題ない。投げてみるとむしろもっと良かった。心配な面もあったが、いざやってみたら上手く行っている」
「球速は確実に落ちていくもの」というオ・スンファン。「いま重要なことは、球速が落ちるスピードをできる限り遅くすることだ。ルーティンを変えた今年は自分にも疑問符が付くだろうが、自分の中では球速が落ちることなく、むしろもっと良くなると信じている。練習方法を変えたことがどのような結果をもたらすのかが気になる」と笑顔を見せた。
どんな選手にとっても“ルーティン”は重要だ。ただ、それを確立することは簡単ではない。そして何より、一度立てた“ルーティン”を崩すことはさらに難しい。それがオ・スンファンほどの選手であればなおさらだ。
悩んだ末に下した決断だが、それでもオ・スンファンにかかる期待が依然として高いのは事実。日米韓通算416セーブをマークし、韓国プロ野球だけで339セーブを記録したオ・スンファンは、歴代最高のクローザーだからだ。
サムスンのホ・サムヨン監督は、今季の投手陣の中心となる船主にオ・スンファンを挙げている。「他の選手もたくさんにいるのに」と微笑むオ・スンファンは、「プレッシャーはない。プレッシャーと考える必要もない。後輩を上手くリードしてほしいということ。マウンドでほかのことを考える必要はない」と、淡々と新シーズンの覚悟を新たにした。
■ソフトバンク柳田を超える最長契約記録…元巨人の“悲運の韓国人投手”とは
前へ
次へ