歌手、女優のイ・ジウン(IU)が、“国民の妹”のイメージを脱して未婚の母でスクリーンに挑戦状を差し出した。
彼女は日本の巨匠・是枝裕和監督が演出した初の韓国映画『ベイビー・ブローカー』で、ベビーポストに赤ちゃんを捨てた未婚の母ソヨン役を演じる。
ソン・ガンホ、カン・ドウォン、ペ・ドゥナといった錚々たる韓国俳優と出演している本作は、第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。全世界の映画人の祭典であるカンヌ映画祭は、有名女優たちでも簡単に出ることはできない場だ。
IUとしてトップシンガーにはなったが、“映画俳優”としては新人に近いイ・ジウン。5月10日にソウル龍山(ヨンサン)CGVで行われた製作報告会では、「暮らしながら、こんな日がまたあるのかという気持ち」とし、「一生懸命学んで楽しんでくる」という感想を明らかにしている。
イ・ジウンが役者として大衆に存在を印象付けたのは、KBS2ドラマ『ドリームハイ』(2011年)で演じたキム・ピルスク役だ。ピルスクはスターの夢を追って競争が繰り広げられる芸術高校の中で、鳥肌が立つほどの歌唱力を持つにもかかわらず、ふくよかな体で注目されないというキャラクター。
当時、30kg台後半と小柄だったイ・ジウンは、ピルスク役のために特殊メイクを強行するなど血のにじむような努力を敢行。キム・スヒョン、ペ・スジ、オク・テギョン(2PM)、ハム・ウンジョン、ウヨンなど今を時めく人気者たちが出演したなか、持ち前の根性で奮闘していた。
以後、歌手として大きな成功を収めたあと、高視聴率が保証されていると言われるKBS2の週末ドラマ『最高です!スンシンちゃん』(2013年)の主人公イ・スンシン役でチョ・ジョンソクと共演したのに続き、チャン・グンソクと出演したKBS2『キレイな男』(2013年)、キム・スヒョンと再会したKBS2『プロデューサー』(2015年)、イ・ジュンギ、カン・ハヌルたちと手を組んだSBS『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』(2016年)などで着実に演技経験を積んできた。
『キレイな男』では初恋相手のトッコ・マテ(演者チャン・グンソク)に尽くすキム・ボトン役、『プロデューサー』では孤独な内心を隠すトップスター・シンディ役、『麗』では現代人コ・ハジンの魂が染み込んだ高麗時代の女性ヘ・ス役を演じ、多彩なイメージを構築。
そして、イ・ジウンのフィルモグラフィで欠かせない作品となったtvN『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』(2018年)。これ以前の作品では“歌手IU”のイメージに頼った側面が強かったが、『私のおじさん』では、世の中に傷つき、社会から疎外されたイ・ジアン役で“役者イ・ジウン”として視聴者たちを魅了した。
大衆文化評論家のチョン・ドクヒョン氏は、「『私のおじさん』は、“歌手IU”という既存の色を破った作品」とし、「演技者イ・ジウンに転換点を与えた作品」と評している。
『私のおじさん』はNetflixを通じて世界190カ国で配信され、歌手IUではなく役者イ・ジウンのファンはより一層強固になった。
是枝裕和監督も新型コロナ禍で『私のおじさん』を視聴し、イ・ジウンのファンになったと告白している。「ドラマの後半では俳優イ・ジウンが出てくるだけで涙が出た」と打ち明けたほどだ。
今や世界的な巨匠たちが求愛する役者イ・ジウンの時代が来たわけだ。
来る5月16日に30歳(数え年)を迎える彼女が、未婚の母役で30代のスタートを切るというのは非常に意味が大きい。小柄で可愛らしいビジュアルで“国民の妹IU”のイメージが強かったイ・ジウンが、役者として成人を宣言したのと同義だからだ。
『ベイビー・ブローカー』で演じたソヨン役は、『私のおじさん』のイ・ジアン役のアップグレードバージョンとも言える。
イ・ジアンがまだ社会に染まっていない20代前半の傷ついた魂だったなら、ソヨンは一層成熟した大人のイメージ。彼女はソヨン役のために初めてスモーキーメイクに挑戦した。濃いメイクと腰まで無造作に伸びたロングヘアは、子供を捨てるしかないソヨンの切迫した心境を如実にあらわしている。
体つきも変化させている。イ・ジウンが所属するEDAMエンターテインメントの関係者は、「自己管理が徹底したイ・ジウンは、作品のために監督の前作を探して観るのはもちろん、役割に合わせてダイエットもする。今回も会社には話さなかったが、ダイエットをしたようだ」と話した。
このような努力について先輩俳優のソン・ガンホは、「ソヨンが屋上で刑事たちと対話を交わす場面をモニタリングし、イ・ジウンの表現と感情の伝達方法に驚いた」と称賛を惜しまなかった。
イ・ジウンも撮影当時を振り返り、「その日、撮影を終えたソン・ガンホ先輩が帰らずに私を待っていた。“その場面をモニタリングしていたが、とても良かった”とおっしゃり、車が遠ざかっていった。私の人生の中でとても印象深い場面だった。家に帰って両親にも自慢した」と言って無邪気に笑っていた。
アイドルとして愛された役者が、歌手活動と演技活動の両方で認められなかった従来のケースとは異なり、イ・ジウンの歩みはハリウッドのトップスター、レディー・ガガを想起させる。
シンガーとして頭角をあらわしたガガは、映画『アリー/スター誕生』(2018年)でクリティクス・チョイス・アワード主演女優賞、映画『ハウス・オブ・グッチ』(2021年)でニューヨーク批評家協会賞主演女優賞を受賞した。
チョン評論家は、「アイドルとして出発し、アーティストへと成長した歌手としての経歴のように、イ・ジウンの演技もやはり経験を通じてより一層円熟になるだろう」と展望している。
今年は『ベイビー・ブローカー』のほかにも、『梨泰院クラス』のパク・ソジュンと共演した映画『ドリーム』(仮題)の公開も控えているイ・ジウン。“国民の妹”を卒業し、一人の役者として成長を続けるイ・ジウンの今後に要注目だ。
◇IU プロフィール
1993年5月16日生まれ。韓国・ソウル出身。2008年にソロ歌手としてデビューした。芸名のIU(アイユー)は“I”と“YOU”の合成語で「あなたと私が音楽で1つになる」という意味が込められている。女性ソロ歌手としてトップに君臨しつつ、女優業も並行。2011年のドラマ『ドリームハイ』で連ドラ初出演&初主演を果たし、『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』『ホテルデルーナ~月明かりの恋人~』などで主演を務めた。女優業は本名の「イ・ジウン」で行う。
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