ソン・ガンホは、「たまには作品に出演したくない理由が、出演したい理由になる時もある。プレッシャーがチャレンジに変わることもある」と言う。
また、「麻薬を題材にしているが、麻薬の世界を探求しているというよりは、人間の歪んだ欲望と挫折、破滅の過程を見せながら、現代人の生きる姿を振り返る映画のようだ。実在した人物と事件なので、リアルに迫ってくる」とし、「普通の人間でも欲望と執着を少しは持っている。ただ、イ・ドゥサムの場合、一般人との執着とは少し違う部分があったので、それをどう表現するかが(今回の演技における)キーポイントだった」と説明した。
犯罪ドラマを標榜した『麻薬王』だが、いざ見てみるとブラックコメディの要素もある。時代を皮肉った物語がユーモアに富んだ主人公のセリフと相まって活気にあふれた。
それについては、「ユーモアはいつでも存在すると思っている。それ自体を目的にするのではなく、日常の中に自然と溶け込んでほしいと思い、監督とはたくさん話し合った。だから序盤はユーモアがナチュラルに出てきたのではないか」と語っている。
続いて、「この脚本を読んで嬉しかった」と言うソン・ガンホは、「ここ10年間、ハードワークの中、真面目だったり小市民で親しみやすいキャラクターを多く演じた。ところが、過去作である『殺人脳追憶』や『ナンバー・スリー No.3』、『グリーン・フィッシュ』で演じたやんちゃなところやドタバタした姿が見えた」と話した。彼が楽しく演じていたことは、『麻薬王』にも滲み出ている。
今回、数々の名シーンを生み出したソン・ガンホに記憶に残るセリフを尋ねると、「スッキョン、お前には悪いことをしたな」と、イ・ドゥサムに扮して披露してくれた。
「これがイ・ドゥサムの理想ではなかっただろうか。幸せに暮らしたかったが、もう取り返しのつかないところまできた時、ようやくそのセリフを言うのが可哀想で悲しく、人生の深い味が感じられて印象的だった」(つづく)