“演技の神”と呼ばれる韓国の映画俳優ソン・ガンホ。そんな彼が、今度は“演技王”という枕詞も獲得することになった。
12月19日に韓国で公開された『麻薬王』(原題)は、1970年代に麻薬の密売に出を染め、希代の麻薬王になった主人公イ・ドゥサムの栄枯盛衰を描いている。
今回、イ・ドゥサムの10年に渡る生き様を演じたソン・ガンホは、ビジネスが勢いに乗った絶好調の様子から、歪んだ信念によって狂ってしまうまでを巧みな演技力で観客を圧倒した。
(関連記事:俳優ソン・ガンホ×ポン・ジュノ監督の新作が2019年公開予定。スチール写真公開)
俳優ソン・ガンホの力を実感すると同時に、その演技力に対する質問が次から次へと浮かび上がる。
麻薬中毒者の様子をリアルに演じられた秘訣は何か。 海外の映画を参考にしたのかと聞いたところ、ソン・ガンホはこう答えた。
「実は、参考すべきものがない。海外の映画作品はあるが、それも実際とは違う。演技というのは、活字や映像化されたものに助けを求めるより、自分の体に入るべきものだ。本人が感じ取る前には決して分からない。ものすごい差がある」
だからといって、実際に麻薬をするわけにもいかない。ただ、ソン・ガンホが言う「感じ取る」ことは、「経験」ではなかった。
彼は「実際の経験が創造の邪魔になることもある」と、演技論を語った。
「つまりは方法論だ。ある俳優はじっくり観察し、共に生活するのが演技に役立つと言う。しかし、私はむしろ遠ざかろうとするタイプ。創造的でなくてはいけないのに、ただの真似になってしまうのを恐れるからだ。だから、もしも(麻薬に関する)資料があったとしても、見なかったと思う。それは私が直接感じ取らなければいけないものだから。私は練習と研究を通じてアプローチした」
リアルな演技の秘訣は、創造性。それなら、創造的な演技をする上で重きを置くべきところはどこだろうか。
ソン・ガンホは、「本質だ」と即答した。
「外見やジェスチャーではなく、本質が重要だ。麻薬によって壊れていく魂、それをどう表現するかが肝だったが、それの本質さわかれば特に何もしなくとも十分表現できると思った。むしろそういう部分で今回の『麻薬王』は演劇的な描写のように感じられる部分もあるが、そういう演技を最大限圧縮して披露しようとした」
映画界で“チケットパワー”1位を誇る俳優ではあるが、薬物を題材にした青少年観覧不可(R-18)の物語にプレッシャーは感じなかっただろうか。