パク・ハンソ監督就任後、ベトナム代表は2018年のU-23AFC選手権で準優勝、2018年アジア大会で同国56年ぶりのベスト4進出、ASEAN諸国最強を決める2018年SUZUKI CUPで10年ぶりの優勝を果たすなど、飛躍的な成功を収めてきたこともあって、今ではその手腕は「パク・ハンソ・マジック」とさえ言われているほどだ。
もっとも、失礼を承知で言えば、パク・ハンソ監督は傑出した戦術家でも知略家でもない。入念な準備はするが、戦術面や対戦相手の分析などの多くは、パク・ハンソ監督とともにベトナムに渡って首席コーチを務めるイ・ヨンジン氏が担当していると聞いている。
今年で56歳になるイ・ヨンジン氏も、KリーグのFCソウルや大邱FCで長らく指導者生活を送るも、昨今の指導者世代交代で韓国では行き場を失いつつあったが、パク・ハンソ監督の誘いでベトナム代表の参謀役を務めている。
「監督は万能である必要はない。自分に足りない部分は専門的なコーチに任せればいい。これはヒディンク監督のもとで学んだ方式だ」とパク・ハンソ監督は語るが、ベトナム代表ではモチベーター的な存在でもあるらしい。
2002年時も常に選手たちと一緒に汗を流すだけではなく、一時的に正位置を失ったホン・ミョンボに喝を入れたり、ファン・ソンホンにゴールを決めたら「なんでもしてやる」と発破をかけたりするなど、選手を叱咤激励しその気にさせる雰囲気作りのうまいコーチだった。
ベトナム代表でも若い選手たちと一緒にボールを蹴り、選手のマッサージ役を買って出てスキンシップを深めたり、ケガや故障を抱えている選手の飛行機移動のためにビジネスクラスを用意したりしながら、選手たちの関係を築いてきたという。
その一方で韓国的な“精神武装”も注入。「諦めたり、走れず倒れてしまいそうなとき、君たちを応援するベトナム国民たちのことを考えてみなさい。今、君たちが諦め、走るのをやめてしまったら、ベトナムが諦め、倒れてしまう。そう思ったら足を止められないだろ?」などと気合を入れて、ピッチに送り出すという。
おそらく森保ジャパンとの対戦前も、心に響くパク・ハンソ節を放って選手たちをピッチに送り出すのだろう。緻密な知略も強烈なカリスマ性もあるわけではないが、パク・ハンソ監督には人をその気にさせる「徳」があるのだ。その徳こそが、「パク・ハンソ・マジック」を生んでいるのではないかと思う。
果たして人情派の徳将に率いられたベトナム代表は、森保ジャパンに“一泡”吹かせることができるだろうか。
実績的にも戦力的にも、日本がかなり優位であることは誰の目にも明らかだ。その点は誰よりもパク・ハンソ監督自身がよくわかっているだろう。
ちなみにパク・ハンソ監督は指導者として過去に2度、日本と対戦したことがある。
直近は昨年のアジア大会だが、遡ること今から19年前の2000年12月に東京・国立競技場で行われた日韓戦。ヒディンク就任前で空席だった韓国代表の代理監督として暫定的に指揮を執り、1-1で引き分けている。
韓国は途中で退場者を出し、60分以上10人での戦いを余儀なくされたが、4人の選手を入れ替えてしのぎきった(親善試合だった)。ベトナム代表就任後も、「交代カードを切るタイミングがうまい」と評価されているらしい。
試合を戦うのは選手でありあくまでも彼らが主役だが、今日の試合ではパク・ハンソ監督のベンチワークにも注目しておきたい。