疑いの余地なく2021年最高の名勝負だった。
10月17日、韓国の全州(チョンジュ)ワールドカップ競技場で行われたアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)決勝トーナメント準々決勝の全北現代(チョンブク・ヒョンデ)モータース対蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)。
“現代家(ヒョンデガ)ダービー”とも呼ばれる両チームの対戦は文字通り“名勝負”だった。
試合は延長戦までもつれる激戦の末に蔚山現代が3-2で勝利。ただ、結果とは関係なく試合内容や雰囲気そのものが“名品”だった。新型コロナウイルスの感染拡大下で萎縮した状況を打破するような象徴的な意味もあった。
Kリーグを管轄する韓国プロサッカー連盟は、新型コロナ感染拡大防止のため普段のリーグ戦でアウェーファンの出入りを禁止している。
ただ、この規定はACLには適用されない。アジアサッカー連盟(AFC)はアウェー席を収容人数の最小8%は配分するよう要求した。これにより、蔚山現代のファンも久しぶりに青のユニホームを着て全北現代の本拠地である全州ワールドカップ競技場に乗り込むことになった。
もちろん、全北現代のファンも多く来場した。上限1万席と定められたスタジアムに駆け付けた観客の数は6869人。多数の観客が見守るなか、全北現代と蔚山現代のライバル対決が実現した。
そして、試合は前評判通りの白熱した展開となった。全北現代と蔚山現代はいつになく激しくぶつかり合った。120分間で両チームが放ったシュート数は計33本。全北現代が17本、蔚山現代が16本だ。
試合の流れそのものが迫力に満ちていた。蔚山現代が決めれば全北現代が追いつくような展開が90分間続いた。
ゴールのレベルも高かった。MFハン・ギョウォン(31、全北現代)が決めたシュートはスタジアムを熱狂させ、日本人MF邦本宣裕(24、全北現代)のボレーシュートも予測不可能なタイミングで決まった。いずれも、韓国屈指のGKチョ・ヒョヌ(30、蔚山現代)を“氷漬け”にするようなゴールだった。
一方の蔚山現代も、鋭いドリブル突破からジョージア代表MFヴァレリ・カザイシュヴィリ(28)が流し込んだ先制ゴールは全北現代のファンを沈黙に陥れ、延長後半には途中出場のMFイ・ドンギョン(24)が左足で強烈なミドルシュートを突き刺した。
コロナ禍のため声を出しての応援は禁止されているが、圧巻の乱打戦を見て落ち着いて反応をすることは不可能に近かった。全北現代のファンも蔚山現代のファンも、本能的に叫ぶことしかできないような展開が繰り広げられた。
両チームは観る者に最後まで手に汗を握らせた。試合終了直前にはブラジル人FWグスタヴォ(27、全北現代)がゴール前でシュートを放つもポストの脇に外れ、スタジアムは沈痛した。
チョ・ヒョヌがチームメイトに集中力を求めて叫ぶと、オランダ人DFデイブ・ブルタイス(31、蔚山現代)は拳を握って歓呼した。アウェーに駆け付けた蔚山現代のファンは、勝利を確信したかのように喜びを満喫した。
何より、全北現代が“らしい”試合を見せたのが印象的だ。敗れたとはいえ、全北現代は今季の対蔚山現代の試合のなかでは最も優れたパフォーマンスを披露した。先に失点を許してリードされる苦しい状況のなか、最後まで食い下がって蔚山現代を苦しめた。
特に、後半になるにつれて蔚山現代との力勝負で優位を占め、試合の展開をさらに面白くした。内容だけ見れば、全北現代が勝利してもおかしくない試合だった。
逆に、蔚山現代にとっては対全北現代のトラウマを乗り越えたことを知らせる意味合いが大きい勝利だった。Kリーグ1(1部)首位を走る蔚山現代は、ACLとFAカップのいずれも準決勝進出に成功している。ホン・ミョンボ監督体制1年目にして3冠の可能性がある。
勝敗が分かれたことで両チームの悲喜も分かれた。
全北現代はダメージを受けた。うなだれた選手たちは慰めを受けつつ、重い足取りでトンネルへと向かった。一方の蔚山現代は、興奮冷めやらぬ様子でスタジアムを回っていた。中立的な立場で見れば、悲しみに暮れる全北現代と歓喜に沸く蔚山現代の様子は非常に対照的で興味深かった。
サッカーの醍醐味を久しぶりに感じさせるようなダービーマッチ。全北現代と蔚山現代のプライドをかけた戦いは、2021年最高と言って良いほどの名試合に終わった。
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