未成年セクハラ騒動で物議を醸した韓国女子フィギュアスケートの人気選手が、再び氷上の舞台に帰ってきた。“キム・ヨナの後継者”の一人と呼ばれたイ・ヘイン(19)のことだ。
イ・ヘインは12月1日、京畿道(キョンギド)の議政府(ウィジョンブ)室内スケート場で行われた「2024 KB金融 全国男女フィギュアスケート会長杯ランキング大会」の女子シングル・フリーで130.19点をマークした。
前日のショートプログラムは60.45点で10位に終わるも、フリーの高得点で大きく順位を上げ、最終的に合計190.63点の5位で大会を終えた。優勝は合計213.51点を獲得したキム・チェヨン(18)で、2位はシン・ジア(16)、3位はキム・ユソン(15)、4位はユン・アソン(17)だった。
特筆すべきは、イ・ヘインが今回の結果によって来年2月にソウルの木洞(モクドン)室内スケート場で開催される「ISU 四大陸フィギュアスケート選手権大会 2025」の出場権を獲得したことだ。
今大会では上位3選手に四大陸選手権の出場資格が与えられるのだが、ISUの規定では、四大陸選手権に参加できるのは2024年7月1日基準で17歳以上の選手のみと定められている。
そのため、優勝したキム・チェヨン以下では、2位のシン・ジアと3位のキム・ユソンが年齢制限によって出場資格を得られず。これによる繰り上げとして、4位のユン・アソンと5位のイ・ヘインが四大陸選手権の切符を手にする形となった。
未成年セクハラ騒動で3年の資格停止処分
イ・ヘインにとって、今大会が重要な復帰戦だったことは間違いない。それもそのはず、彼女は“未成年セクハラ騒動”によって韓国氷上競技連盟から重懲戒を下されていたからだ。
イ・ヘインは今年5月、イタリア・ヴァレーゼで行われたフィギュアスケート韓国代表の合宿に参加した際、別の女子シングル選手Bと宿舎で飲酒した事実が発覚した。加えて、連盟の調査過程では未成年で異性の後輩選手Aにセクハラ行為をした事実も明らかになった。
これを受け、連盟は6月20日のスポーツ公正委員会でイ・ヘインに対する3年間の国家代表資格停止処分を決定。後輩選手Aにも、女子選手の宿舎訪問が強化訓練規定に違反しているとしてけん責処分を科した。
ただ、イ・ヘインは飲酒行為の事実こそ認めて謝罪したものの、セクハラ疑惑は強く否定した。
イ・ヘインは当時、SNSで公開した謝罪文で「(Aは)高校時代に付き合った彼氏で、両親の反対で別れた後、今回の合宿で再会した。お互いを好きだった感情が残っていたためか、そこでまた付き合うようになった。ただ、両親に知らせたくない一心から、その事実を秘密にすることにした」と、Aと“秘密恋愛”をしていたことを告白した。自分たちが“被害者”と“加害者”の関係性ではないと主張したわけだ。
このため、8月29日には処分軽減を求めて大韓体育会のスポーツ公正委員会に再審議を申請。「未成年へのセクハラ犯という烙印が押されてしまった状況で、選手というよりは一人の人間、一人の女性として、セクハラ犯ではないという事実を明らかにしたい」と訴えるも、翌30日に公正委員会が「イ・ヘインの再審議申請を却下する」と発表したことで、3年間の国家代表資格停止処分が事実上確定となってしまう。
そんななか、イ・ヘインは公正委員会の決定を受けて、今度は裁判所に懲戒効力停止の仮処分を申請。すると11月12日、ソウル東部地裁が仮処分申請を引用したことで、一時的に選手資格を回復することになる。
裁判所は当時、引用の理由について「セクハラとは性的羞恥心や嫌悪感を起こさせ、善良な性的道徳観念に反する行為として被害者の性的自由を侵害することを意味する。成人が満16才未満の青少年に愛情行為をしたという事情だけで、すべてをセクハラに該当すると見ることはできない」と説明。
「事件の行為当時、Aの年齢が満16歳未満だったとしても、イ・ヘイン事件の行為が刑法第305条第2項で定めた未成年者への強制わいせつに該当するとは認め難い」とし、イ・ヘイン側の主張を受け入れた。これによってイ・ヘインは表舞台に返り咲き、劇的に国際舞台への出場権も得ることになった。
イ・ヘイン「連盟との確執望んでいない」
そんなイ・ヘインは大会後、報道陣の前で予め準備した立場文を次のように読み上げていた。
「復帰舞台に立つことができ、本当に感謝の気持ちしかない。機会をくださったすべての方々に感謝し、私の不足で大きな失望を抱かせた点をお詫び申し上げる」
「私にとって最も大変で、本当に貴重な学びの時間だった。今回の復帰は、単に試合のスタートではなく、新たな覚悟の出発点だ。今回の機会を通じて、さらに成熟して責任感のある選手に生まれ変わる」
「大変だったし、崩れ落ちそうな瞬間も多かった。ただ、多くの方々の応援のメッセージで力を得た。その方々に直接姿を見せて、“ありがとうございます。申し訳ございません”という言葉を申し上げたく、諦めなかった」というイ・ヘイン。「(演技中に)応援の声が多く聞こえた。私も今日はファンの方々と目を合わせたかった。ただ感謝するという気持ちだけだ。幸せだという気持ちが一番多くなった」と、ファンに感謝の思いを伝えた。
最後に、イ・ヘインは韓国氷上競技連盟との争いを望んでいないことも強調。「連盟と対立した構図のように映った状況がとても残念だ」とし、「連盟との確執は絶対に望まなかった。個人的に悔しくてもどかしい部分を訴えるため、その過程で不必要な誤解と議論が生じて残念だ。これからはスケート界のためにもっと責任感のある姿をお見せしたい」と訴えていた。
なお、一時的に選手資格を回復したイ・ヘインは現在、懲戒処分無効確認の訴訟も進めているという。一時は絶望視された2026年ミラノ冬季五輪の出場も可能となるのか、引き続き動向を注目したいところだ。
◇イ・ヘイン プロフィール
2005年4月16日生まれ。韓国・大田広域市出身。身長164cm。大韓民国のフィギュアスケート選手。高麗大学在学中。幼少期から“キム・ヨナの後継者”として将来を期待された有望株。2023年3月の四大陸選手権でキム・ヨナ以来14年ぶり、韓国勢史上2人目の金メダルを獲得。同年4月の世界国別対抗戦では韓国の銀メダル獲得に貢献した。2024年6月、同年5月にイタリア・ヴァレーゼで行われた代表合宿で発覚した宿舎での飲酒行為、未成年で異性の後輩選手へのセクハラ行為により、3年間の国家代表資格停止処分を下された。同年8月29日に大韓体育会スポーツ公正委員会の再審議を受けたが棄却。その後、裁判所に懲戒効力停止の仮処分を申請し、11月12日にソウル東部地裁がこれを引用する判決を下した。
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