「キャプテンとして、W杯に行く選手には“楽しめ”と伝えたい」
ただの形式的なアドバイスではない。欧州トップレベルで10年以上プレーし、W杯も過去に2大会出場した“経験値”が込められた意味のある発言だった。
韓国代表キャプテンを務めるFWソン・フンミン(29、トッテナム)は、来る11月のカタールW杯でキャリア3度目のW杯に挑戦する。
今回のカタール大会は、ソン・フンミンにとって“レジェンド”に足を踏み入れる大きな第一歩となる。
これまでチャ・ボムグン、パク・チソンといった欧州ビッグリーグで活躍した先人の後を追い、昨シーズンにはイングランド・プレミアリーグでアジア人初となる得点王のタイトルも獲得。韓国を越え、アジアサッカー界最高の“生きる伝説”として生まれ変わった。
しかし、そんな彼にも未だ果たせていないことが残っている。一つはクラブでの優勝トロフィーだが、もう一つはW杯で好成績を残すこと。これは、自身のロールモデルに挙げるパク・チソンを越えるために必要な試練だ。
ソン・フンミンは2014年ブラジルW杯を通じてW杯デビューを果たした。グループステージ第2節のアルジェリア代表戦(2-4で敗戦)で大会初ゴールを決めたが、チームとしては1分2敗の結果でグループステージ敗退に終わった。
その4年後の2018年ロシアW杯では、“半分の成功”を収めた。グループステージ第2節のメキシコ代表戦(1-2で敗戦)で左足からのワンダーゴールを決めたソン・フンミンは、第3節で当時FIFAランキング1位のドイツ代表(2-0で勝利)を撃破する劇的なゴールを決め、初めて「W杯で得点=勝利」の方程式を築いた。
ただ、結果として韓国は1勝2敗でグループステージ敗退に終わった。ソン・フンミン自身、試合後には大粒の涙を流し、W杯の舞台を早期に去る悔しさを味わった。
それだけに、来るカタール大会では代表キャプテンとして韓国を決勝トーナメントに導きたい思いが強い。12年前の2010年南アフリカW杯では、“偉大な先人”パク・チソンがキャプテンとして韓国史上初の国外開催W杯での決勝トーナメント進出を達成した。現在の韓国代表が、パウロ・ベント監督の下で途中交代なく4年間チーム作りができている点も鼓舞的だ。
とはいえ、世界トップクラスと競うことになるW杯本大会では、試合の雰囲気からして選手にかかる重圧感は違うだろう。
7月4日、自身のスポンサーであるアディダスの弘大(ホンデ)ブランド売り場で行われた記者会見に登場したソン・フンミンは、「(W杯で)自分たちにできることを最大限発揮しなければならない。今は“どうすれば自分たちがやってきたことをすべて発揮できるのか”ということだけを考えている」と語っていた。
W杯のような大舞台では戦術や戦略も重要だが、心理戦が大きな影響を及ぼすということだ。
振り返ると、ロシア大会のグループステージ初戦であるスウェーデン代表戦も、心理戦で後れを取り、結果的に0-1で敗れた。ロングボール中心の単調な攻撃パターン、スローな守備など、当初スウェーデンの特徴が実際に蓋を開いたときも、韓国の選手は相手の高さを意識して失点しないことだけに執着していた。
そのため、より攻撃的なポジションでこそ活きるソン・フンミンも、まるでウィングバックのようにピッチを上下動してチームを支えていた。結局、韓国はミスへのプレッシャーから相手にペナルティキックを与えてしまい、1点差で敗れることになった。
その後、韓国はメキシコ戦、ドイツ戦で相手の戦略をあまり意識せず、ソン・フンミンを最前線に据えたことで、ある程度の成果を挙げられた。ソン・フンミンも当時の記憶は今も忘れていない。
それだけに、今度のカタールW杯では「ビビることなく」自分のプレーをしてほしいと願った。
「W杯といって力みすぎないでほしい。(6月2日の)ブラジル代表との親善試合にしても、チームメイトは緊張して力が入っていた。そういった多くのプレッシャーや重圧によって、4年に一度のW杯のチャンスを逃さないでほしい」と強調した。
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