2月15日から始まった北京五輪のフィギュアスケート女子シングル。昨日のショートプログラムで首位に立ったのはROC(ロシア・オリンピック委員会)のカミラ・ワリエワ。
だが、過去のドーピング検査で陽性と判定されるも、出場が認められた彼女に対しては、世界各地でさまざまな意見が出ている。
韓国では国民的人気を誇り、今も“フィギュア女王”、“氷上の妖精”と言われるキム・ヨナが自身のインスタグラムに真っ黒な画像を投稿。
英語で「ドーピング規定に違反した選手は競技に出場できない。この原則には例外があってはならない。すべての選手の努力と夢は公平であり、大切に考えられなければならない」と綴って驚かせた。
そもそも、キム・ヨナが普段インスタにアップするのは雑誌やモデルを務める企業のグラビア写真だったり、ほっこりするような日常のプライベート写真ばかり。
シリアスな書き込みはほとんどなく、過去にこれほど強い主張もなかっただけに、大いに話題になったのは日本でも伝わっている通りだが、韓国では昨日のショートプログラムのテレビ中継で異例な出来事が起きている。
ドーピング問題の渦中にあるワリエワの演技に対して、韓国のテレビ放送局が沈黙中継という形で猛抗議に出たというのだ。
昨日、韓国現地でテレビ中継を見守った本紙『スポーツソウル』五輪取材班によると、KBS・MBC・SBSの地上波3局の中継陣すべてが、ワリエワが出場すると一斉にダンマリ。彼女が演技を披露した約3分間、特に何も言及しなかったという。
「KBSとSBS解説陣は、ワリエワの演技が終わって主要場面の映像が再生されるときに、ジャンプのミスなどに対して簡単に解説したぐらいでした。MBC解説陣は演技中、ほとんど沈黙を守りながら技術について簡単に説明した程度でした」(『スポーツソウル』五輪取材班)
異様ともいえる沈黙中継だったが、韓国ではドーピング問題が明るみに出たワリエワに、試合出場の許可が出たことに対する各テレビ局の抗議だと受けとめられている。
筆者も映像を確認してみたが、SBSで解説を務めた韓国の女子フィギュア選手イ・ホジョンはワリエワの演技が終わった直後、「出場が強行した演技に対して、私たちはいかなる言及もできなかったという点をお伝えします」と付け加えて、視聴者たちに理解を求めていた。
解説者たちが沈黙の抗議をしたのはSBSだけではない。
『スポーツソウル』五輪取材班によると、ほとんど各局の解説者や実況担当者がワリエワの出場について、厳しく批判したらしい。
「多くのことの責任を負うならば、出場すべきではない気がする。私が最も怒っているのはこの選手(ワリエワ)によって、他の選手たちが被害を受けなければならないということです」(2010年バンクーバー五輪・女子フィギュア韓国代表クァク・ミンジョン)
「幼い頃から練習して正々堂々と戦って、この舞台に立つ選手たちの努力はどうなるのでしょうか。この選手(ワリエワ)は天才少女と言われてきましたが、薬物を服用して天才になった少女でした」(SBSイ・ヒョンギョン・アナウンサー)
「薬物を服用したワリエワ選手も責任があるが、その後にもっと責任を負わなければならない何かがあるのではないですか」(KBS ナム・ヒョンジョン・アナウンサー)
「ドーピングをした選手と競争するということは、公正なことではないでしょう」(MBCキム・チョロン・キャスター)
「選手本人も自らが作ってしまったドーピングという監獄から自由になれないでしょうね」(2014年ソチ五輪・女子フィギュア韓国代表キム・ヘジン)
ワールドカップやオリンピックといった国際大会になると、韓国では地上波3局すべてが生中継して、実況や解説の違いを視聴者にアピールするが、今回の北京五輪フィギュアスケート女子のワリエワ出場問題に関しては同じスタンスのようだ。
来る17日のフリーでも、韓国地上波3局は「沈黙中継」を続けるのだろうか。
(文=慎 武宏)
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