韓国eスポーツ界の闇…eスポーツの賭博合法化に立ちはだかる“最大最悪”の事件とは

2021年04月12日 社会 #eスポーツ

日本では現在、東京五輪開催の是非を巡って日々議論が繰り返されているが、韓国ではすでにeスポーツが正式種目として採択された2022年のアジア競技大会に向けて様々な話し合いが行われている。

そのなかでも注目したい話題はeスポーツの賭博合法化だ。

2021年に入り韓国では、eスポーツ協会と国会議員がeスポーツの体育振興投票券の導入についての討論会が行われた。体育振興券とは日本で言うところの“スポーツ振興くじ(toto)のようなもので、韓国では一般的に“スポーツトト”と呼ばれている。

この討論会ではeスポーツ賭博を合法化するにあたって、集まったお金をどのように活用するのか、そもそもeスポーツはスポーツとして扱うのか、ゲーム市場のメインターゲットであるMZ世代(2000年以降に成人を迎えたミレニアル世代と、1990年代中盤以降に生まれたZ世代)への影響などが議論されたが、なかでも注目したいのは賭博とは切っても切れない存在である“八百長”に関する問題だ。

なぜならば、韓国では過去に世界でも類を見ないほど大規模な“eスポーツ八百長事件”が起きており、このこともeスポーツのスポーツトト参入における大きな障壁となっているそうだ

“韓国eスポーツ史上最悪”の事件

“eスポーツ史上最悪の事件”とも称される出来事の発端は、2010年4月。当時韓国で最も流行っていたゲームタイトル『Starcraft』(スタークラフト)のコミュニティサイトに、当該タイトルのプロリーグで不正が行われているという噂が流れたことから始まった。

当時は、あくまでもネット上の噂として受け取られ、さほど大きな問題とならなかった。しかし、一部のネットユーザーたちから『Starcraft』リーグの試合でプロゲーマーらしくない不可解なミスや判断があったと指摘したことから疑惑が再燃。

その後、検察が数多の『Starcraft』に関する賭博サイトを調査したところ、多数の元プロゲーマーや現役ゲーマーが関与しているということが判明。そして疑惑は大々的な捜査へと発展し、数々の八百長が海外サーバーを介した違法サイトで行われていたことが発覚することとなった。

捜査で明らかになった犯罪内容は、ブローカーがリーグ戦績の良い現役選手に近づき、謝礼金を渡す代わりに賭博対象となる試合で故意に負けることを要請していたのだ。賭博参加者らが強豪選手に賭けることを逆手に取り、ブローカーが前評判の低い選手にあえて賭けることで巨額の配当金を受け取っていたとされている。

ほかにも、プロゲーマーの研究生を金で買収し、有名選手の練習姿を動画で入手することでプレイ傾向を把握するなど、不正は多岐に及んでいたのだ。

この八百長事件で摘発された10数人のうち、半分ほどが現役の有名選手で、残りは2軍選手やプロゲーマー出身のブローカーだった。しかしこれは氷山の一角にすぎなかったという。

“八百長”に加担せざるをえなかったワケ

なぜ韓国ではeスポーツの現場が八百長の手に染まってしまったのか。それは当時のプロゲーマーたちが置かれていた環境とも無関係ではないだろう。

当時の韓国では、プロゲーマーという職業は好きなゲームで大金を稼げる華やかな職業に見えていたが、それは表舞台に登場していたごく一部のトッププレーヤーに限った話で、大半の選手は最低水準の賃金も受け取れずにいたと言われている。

そのため、他のスポーツ競技の八百長事件に比べるとかなり低い買収金額(200万~300万ウォン約=20~30万円)でもその誘惑に負けてしまう若者が多く、実際その弱みにつけこまれて悪事に手を染めてしまう選手や関係者も多かったのだ。

いずれしても八百長発覚で巨大なスキャンダルの現場となってしまった『Starcraft』リーグ。八百長捜査が本格化したあと、韓国eスポーツ協会は出場選手のリストを事前に公開する方式から、試合当日に現場で公開する方式へと変更し、選手とブローカーが事前に接触することを完全遮断。チームサイドも八百長に関わった選手は退団させ、疑惑が浮上した選手に対しては潔白が証明されるまで試合出場を見合わせるなどの対応を取ったが、時すでに遅しだった。

一度しみついてしまった八百長というダーティーなイメージはいつまでも付きまとい、スポンサーが次々と撤退。10年以上の長い人気を誇ったが、2016年を最後に解散することとなった。

eスポーツプレーヤーのセカンドキャリア問題

こうした過去の八百長事件へのトラウマが今もあるだけに、関係者たちはeスポーツのスポーツトト参入に対して慎重で、一部では八百長防止のためにも選手のセカンドキャリア改善を叫ぶ声もある。

というのも、前述のように選手たちが八百長の手を染める原因はゲーマーたちの収入問題とも関係しているためだ。

そもそも、韓国のプロゲーマーは早ければ10代半ばでプロデビューするが、兵役により20代半ばで引退しなければならず、収入面での不安が八百長に加担する動機となっていた点も否定できなかった。

【関連】 2022年アジア大会のeスポーツ種目で韓国が絶対に負けられない2つのワケ

2010年以降はプロゲーマーを養成する教育機関などの増加、eスポーツ産業における職業の多様化が促進されたが、当時活動していたプロゲーマーは10代の頃から学業と並行して選手生活を送っていたため必然的に学習機会や進学を逃す者も多く、引退後のセカンドキャリアも不透明だった。

ゲームの知識を生かしてYouTuberなどで活動する元選手や、PCバン(ゲーム専用のインターネットカフェ)運営などのセカンドキャリアを送る者もいるが、それも一握り。よしんばそのような職に就けたとしても、現代においてはスマホゲームや家庭のネット環境の普及、娯楽の多様化などにより厳しい面にあり、誰ひとりとして安定的ではないというのも韓国eスポーツ界の現実なのだ。

近年はプロeスポーツの地位も向上し、冒頭に述べたように国際的なスポーツ大会の正式競技にも選ばれたeスポーツ。韓国はこの分野で明らかに世界のトップグループにあるが、業界がさらにもう一段階レベルアップするために本当に必要なものは、スポーツトトの合法化よりもセカンドキャリアの構築を手助けする受け皿なのかもしれない。

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