11月6日、第34回東京国際映画祭の監督特集として、映画『空白』のQ&AトークイベントがTOHOシネマズシャンテで行われた。本作は、映画『ヒメアノ~ル』が第20回富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭の禁止区域セクションで上映された吉田恵輔監督の最新作だ。
本作は、万引きがスーパーの店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれてしまった娘の父親(演者:古田新太)が、店長(演者:松坂桃李)を激しく追及する狂気を描いた。本作は、20年前に実際に起こった事件から着想を得たという。
吉田監督の「多分これが僕の人生のピークなんじゃないか。これから落ちていくだけの姿を見送ってください。人生のピークを見せられたことが幸せです」と、ユーモアあふれる挨拶で始まった本イベント。
まず『空白』を作ることにきっかけについて、「唐突な“親友の死”や震災などで、急に大事な人がいなくなった人が、どのように折り合いをつけているのかと思い、“折り合いをつけられない男”の話を書いて、折り合いをつけようと思った」と語った。
物語を作り始める段階で、20年前の事件をベースにさまざまな要素を取り入れる中で、伝えたいことを入れすぎたあまり書き終わったあとには「自分がめちゃくちゃ怒っている人みたいになった。世の中に対してねちっこく思っていることが詰まった作品になった」と制作の感想を伝えた。
続いて作品を鑑賞した観客からの質疑応答コーナーへ。「『ヒメアノ~ル』も観ましたが、居酒屋で重要な話をするシーンがあって、『空白』の終盤で昼間の食堂で大事なシーンがありましたが、何か意図はありますか?」という質問に、「基本僕の映画は、大事なことはあえて居酒屋で話すことにしています。本当は夜にしたかったが、納骨のあとだったので、時間の関係でランチになりました。なので、次の作品でも居酒屋に注目してください」と作品へのこだわりを伝えた。
また「キャストがとても素晴らしいと思いました。監督から見て、この役者のこのシーンが唸る、と思うシーンは?」との問いには、「まず松坂(桃李)さんと寺島(しのぶ)さんのキスシーンがとても好き。あまりにも熱量と芝居がすごいので、もう一回は撮れないなと思い、ワンカットで撮りました。自分も見ながら圧倒されました。古田さんは全部すごいと思ってたんですが、お葬式のシーンで片岡(礼子)さんを何度か撮り直したんですが、古田さんはセリフも少なく肩しか映らないのに、片岡さんがやりやすいように毎回全力で支える姿が印象に残っています」と撮影の裏側を振り返り、注目ポイントを教えてくれた。
最後には、「(冒頭で)ピークだと言いましたが、来年あたりに公開の未発表作品があるので、それを見て、落ちたな、落ちてないなと判断してもらえれば」とし、今後への期待を抱かせる言葉で締め括った。
終始和やかなムードで進んだ今回のQ&Aイベント。写真撮影でもにこやかに応じてくれた吉田監督の穏やかさが伝わる、素晴らしい30分だった。
(取材・文・写真=高 潤哲)
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