宮廷で王の子の死を目撃したのは、“盲目の鍼医”ギョンスだった。
朝鮮王朝時代の歴史資料「仁祖(インジョ)実録」に記された“怪奇の死”にまつわる謎をテーマに、盲目の目撃者が怪奇な死の真相を暴くため奔走する…!予測不可能な展開を緊張感たっぷりに描き、韓国で大ヒットを記録したサスペンス・スリラーが『梟―フクロウ―』だ。
「第59回百想芸術大賞」「第44回青龍映画賞」をはじめとする韓国の名だたる映画賞を総なめした本作が、いよいよ日本で公開される。
商業映画デビュー作にもかかわらず、その年の韓国年間最長No.1記録を樹立したことで“大型新人監督”として脚光を浴びているアン・テジン監督が、映画について語ってくれた。
ー本作のストーリーのきっかけについて、過去のインタビューで「歴史資料からインスピレーションを受けた」というお話が非常に印象的でした。詳細を教えていただけますか。
「視覚障害を患っている主人公が何かを目撃する」というアイデアに魅了され、これにマッチする時代とストーリーを模索しました。その過程で朝鮮王朝時代の歴史資料に残る仁祖の死にまつわる「まるで薬物中毒になって死んだ人のようだった」という一文に深い興味を抱き、これを元に作り上げていきました。
ー前半は群像劇、後半はサスペンスという構成になっていますが、特にこだわった演出は?
主人公のギョンスが事件を目撃する前と後の世界が対照的になるようにこだわりました。劇中、彼の人生もガラリと変わってしまいますよね。観客にもギョンスの視点から恐怖や葛藤をリアルに感じてもらえるように心がけました。
ーアン・テジン監督は『王の男』の助監督としての経歴をお持ちですが、本作の制作にあたって『王の男』を手がけたイ・ジュンイク監督との過去の経験やアドバイスを参考にした点はありますか。また、イ・ジュンイク監督から本作を見られた感想などは聞かれましたか。
イ・ジュンイク監督から「スタッフや俳優の意見をちゃんと聞けば、必ずいい作品は作れる」と聞いていたので、参考にしていました。
監督に撮影前に台本をご覧いただいたのですが、「つまらない」とおっしゃってましたね(笑)。完成した映画は「面白い」とお褒めいただきました。
ー仁祖役にユ・ヘジンさんをキャスティングした理由は?また、仁祖を描くにあたってどのような点に注意しましたか。
これまでの時代劇において、王様というのは厳格なキャラクターが多かったのですが、本作に登場する仁祖は弱さを持った人間味のある王にしたいと考えていました。そこで一人の人間としても魅力的なユ・ヘジンさんを起用しました。実在した人物なので歴史の脈絡から離れないように意識しました。
ー俳優への演技指導や現場での裏話などはありますか。
撮影に入る前から俳優たちとは多くの対話を交わしました。現場でもリハーサルを重ね、セリフの調整を行いながら進めていきました。リュ・ジュンヨルさんやユ・ヘジンさんをはじめとする俳優陣が素晴らしい演技を披露してくれたおかげで、私は良いテイクを選ぶだけでした。役者に恵まれた幸せな監督です。
ー普段、日本の作品もご覧になりますか。お気に入りの日本作品などがあれば教えてください。
もちろん見ますよ。若い頃は、黒澤明監督の『羅生門』『七人の侍』『天国と地獄』など、日本映画の巨匠と呼ばれる方達の作品をたくさん見ましたね。最近見た中で、特に印象深かったのは是枝監督の『怪物』です。
ー最後に、日本の映画ファンに紹介しておきたい本作の見どころを教えてください。
すべてのシーンをお楽しみいただけたら幸いですが、この作品を通じて歴史に対する新たな興味を抱いていただけたら嬉しいです。そのために、意図的に空白やスキを残しました。
次回作は、AIが登場するアクションスリラーを考えていると明かしてくれたアン・テジン監督。今後の作品にもますます期待が高まるばかりだ。
映画『梟―フクロウ―』は2月9日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー。
(文=新井いるる)
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