かつてベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)や柏レイソルで活躍し、現在は韓国Kリーグ1(1部)の蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)を率いるホン・ミョンボ監督が、本紙『スポーツソウル』の創刊38周年インタビューに応じた。
2023年上半期の韓国サッカーを代表するキーワードの一つが「蔚山現代天下」だ。
昨シーズン、17年ぶり3度目のKリーグ制覇を成し遂げた蔚山は、今季も圧倒的な戦いぶりを披露。第18節終了時点で14勝2分2敗の勝ち点44とし、2位・浦項(ポハン)スティーラーズ(勝ち点31)と13ポイント差の単独首位を走っている。
かつて1990年代の一和天馬(イルファ・チョンマ/現・城南FC)や大宇(テウ)ロイヤルズ(現・釜山アイパーク)、2000年代の水原三星(スウォン・サムスン)ブルーウィングスやFCソウル、2010年代の全北現代(チョンブク・ヒョンデ)モータースなど、各時代でKリーグを代表したチームは存在した。
ただ、蔚山は単純な成績を越えて、韓国サッカー界全般にメッセージをもたらす先導的な戦術、パフォーマンス、マーケティングで、クラブ創設以降“第2の全盛期”を迎えている。
蔚山の躍進は“指導者”ホン・ミョンボの進化を垣間見える場でもある。
これまで2009年U-20W杯ベスト8、2012年ロンドン五輪銅メダル、2014年ブラジルW杯グループステージ敗退など、指導者として栄光も挫折も味わったホン監督は、蔚山で韓国サッカー界屈指の指導力を発揮している。
2020年末、それまで準優勝のジンクスに苦しめられていた蔚山の新指揮官に就任した蔚山は、「チームに対するロイヤリティ、責任感」を内部の欠如要素だと判断し、チームのリモデリングを推進した。
主力、控えを問わず“献身”をテーマに動機づけをしてきたホン監督は、ついに昨シーズン、ライバルの全北を越えてチームに優勝トロフィーをもたらした。
優勝という結果は選手に自信をもたらした。それは今季の戦いぶりから見て取れる。監督の意中を先に理解し、実践するのはもちろん、若い選手もスポンジのように教えを吸収し、蔚山が志向するビルドアップ、コンビネーションプレーで圧巻のパフォーマンスを披露している。
ホン監督は最近、蔚山のクラブハウスで行った『スポーツソウル』創刊38周年インタビューで、「就任以降3年間で最も変わったことは選手たちの姿勢」とし、次にように続けた。
「私が強調することの一つが、“気分が態度に出ないようにしろ”ということだ。(スターが多いチームであるにもかかわらず)試合に出られないからと言って、自分の気持ちのままに行動せず、チームに合った行動をすることが、ビッグクラブに相応しい選手だ」
「パク・チュヨン、イ・チョンヨンらベテランたちが常に献身してきた。後輩が見て学びながら互いに励まし合い、常に最上のパフォーマンスを維持しようとする文化が定着した。グラウンドに誰が出たとしても、バランスの取れたパフォーマンスを発揮できる秘訣だ」
ホン監督就任以降、蔚山は「準優勝」「全北」「浦項」「大邱遠征」「水原遠征」など、これまでチームの足を引っ張ってきた主要なジンクスをすべて削除した。これも今期の独走を後押しする要因だ。
ホン監督は「重要なのは、指導者からジンクスを考えないことだ。ジンクスによって“必ず勝たなければならない”と考えてしまうこと自体改めなければならない。監督が執着すれば悪手につながる。自分のことだけを考えてしまうからだ」とし、「私はそのような試合で、むしろ自由を与える方だ」と伝えた。
また、「その中心にはお互いに対する尊重と信頼がある。“君は選手なのだから、監督に従え”ではなく、人と人として尊重する。そして、信頼を築いてこそ、ジンクスや危機にも勝つことができる」と強調した。
そんなホン監督はグラウンド外で“Kリーグ文化設計者”としても注目されている。
指揮官は選手のみならず、クラブ全体のマネジメントレベルを高めることに大きく貢献している。
蔚山以前の2017~2020年には韓国サッカー協会の専務理事を務めたホン監督は、代表やクラブを一方後ろの立場で見ながら、複数の構成員と呼吸を合わせてきた。これが、「サッカー選手、監督」から「マネージャー型サッカー人」に生まれ変わるきっかけになった。
就任初期から1軍の戦術や結果だけに没頭せず、選手とフロント、ファンが一丸となって継続的に発展するリーディングクラブを目指してきた。
クラブの映像チームにロッカールームを開放し、リアルな現場の状況を共有し、蔚山独自のドキュメンタリー『青い波』の公開に乗り出した。
また、地域のサッカー愛好家とボールを蹴ったり、ソウル等首都圏在住のファンともコミュニケーションを取ったりするなど、積極的に活動を繰り広げた。
その結果、蔚山は成績だけでなく“フロントも1位時代”を迎えた。
ファンにフレンドリーなクラブに贈られる「ファンフレンドリークラブ賞」を、蔚山はホン監督体制で3年間独占している。
今季現在までホームゲームの平均観客数は1万7388人(計15万6042人)で、客単価基準で試合当たり2億ウォン(日本円=約2000万円)のチケット収益を上げている。
また、施設管理公団からF&B事業権を獲得し、1試合当たり6000万ウォン(約600万円)台の売り上げを記録している。
これはKリーグの地方クラブの限界を超えた画期的な“事件”だ。評判の高いパフォーマンスと楽しさをもたらす試合で、蔚山は全国各地からファンが集まる“全国区クラブ”に生まれ変わった。
ホン監督は「たまにホームゲーム直後、ソウルに行くことがあるが、蔚山駅などで我々のチームのユニホームを着た(他地域の)ファンを本当に多く見かける。駅に行く途中に立ち寄るスンデクッ屋さんがあるが、そこでもやはり多い。感謝の気持ちでこっそり計算して出てくるときもある」と笑顔を見せた。
ただ、Kリーグ全体のファン文化が成熟したなかでも、チームの成績に不満を抱いてチームバスを囲む一部のファンの行動には自身の見解を示した。
「成績が出ないとき、監督が言うべきことは“申し訳ない”しかない」と口を開いたホン監督は、「バスを止めて“監督出てこい”と言い、葛藤を生じさせるよりも、肯定的な方向に見解を分かち合い、悩む場が増えてほしい。フロントの責任も伴わなければならない」と伝えた。
指導者を越え、一人のサッカー人として“第3の全盛期”を過ごすホン監督は、今年限りで蔚山との契約が終了する。
現在はクラブと契約延長交渉中だ。多くのファンはホン監督の次のキャリアをすでに知りたがっている。蔚山と長期的なビジョンを共有することを願いながらも、指導者として勢いがついた今、代表監督への再挑戦などを願う声も多い。
また、行政家として韓国サッカー界のためにさらに貢献してくれることを望む声もある。
ホン監督は最後に、「(今後)監督であれ行政であれ、その時期に私を最も必要とすることが何かが重要ではないか。韓国サッカーが良い方向に進むために私が必要なのであれば、常に挑戦は避けない」と笑顔で伝えた。
(構成=ピッチコミュニケーションズ)
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