残留を決断したきっかけは指揮官と妻の存在だった。「監督のために残った。妻からも“W杯に一度は出るべきではないか”と伝えられた」と彼は打ち明けた。
Kリーグ1(1部)の全北現代(チョンブク・ヒョンデ)モータースに所属する韓国代表DFキム・ジンス(30)は7月6日、アウェーのソウルワールドカップ競技場で行われた第20節のFCソウル戦に左サイドバックで先発フル出場。チームの1-0の勝利に貢献した。
かつてアルビレックス新潟、ホッフェンハイムに在籍し、2017年に全北現代に加入したキム・ジンスは、2020年夏にサウジアラビアのアル・ナスルに完全移籍するも、現地で負ったアキレス腱断裂の重傷の影響もあり、昨年夏にレンタル移籍で全北現代に復帰していた。
そして、今年6月30日をもって一度はレンタル契約が終了したが、レンタル元のアル・ナスルと長い交渉の末、レンタル期間の延長に合意した。今季残り後半戦はもちろん、31歳になる2023シーズンまで全北現代でプレーできるようになった。
キム・ジンスは、全北現代残留の理由について次のように打ち明けた。
「自分にとって何が良い選択なのかをずっと悩んできたが、2つのことが思い浮かんだ。一つは、試合に出てコンディションを維持することも重要だが、監督の存在が大きかったこと。もう一つは、妻が“W杯に一度は出るべきではないか”と話してくれたことで、僕がどこにいるべきかの方向を提示してくれたことだ」
全北現代を率いるキム・サンシク監督は、キム・ジンスと厚い信頼関係にある。「ここ数日はジンスのこともあってよく眠れなかった。ようやく一息つけるようになった」という指揮官は、「今日は最高のパフォーマンスを見せてくれた。ジンスがいるかいないかでその差は大きい。攻守にわたってチームを引っ張ってくれる選手だ」と愛情を示した。
キム・ジンスも同様だ。「コーチ時代から、今は監督としてずっと全北現代でともにしている。監督が現役時代、どれだけすごい選手だったかも知っている。監督とはフィーリングが合う。僕も監督の信頼に応えようと常に思っていて、その部分が、お互いの信頼をより一層厚くしたと思う」と彼はほほ笑んだ。
そんなキム・ジンスだが、未だ出場経験のないW杯には苦い思い出しかない。
新潟時代に迎えた2014年ブラジルW杯では、一度は韓国代表メンバーに正式に選ばれるも、大会直前の負傷で離脱。続く2018年ロシアW杯も、開幕3カ月前に負った左ひざのじん帯損傷で落選を経験した。
それだけに、3度目となる今回のカタールW杯では、同じ悲劇が繰り返されないことを誰よりも強く願っている。
「W杯に対する執着心は、ロシアのときが一番強かった。といっても、今は執着心がないわけではないし、カタールW杯に出たいと思っているのも事実だ」
「2014年のブラジル大会も、2018年のロシア大会も、自分の意志が足りなかったせいで出られなかったとは思っていない。自分の意志とは関係なく、負傷によって出られなかった。人生何が起こるかわからないし、今回も気を付けたからと言って変わることはない。ただただ、ピッチ上で最善のパフォーマンスを見せるしかない」
「今回もW杯に出られなくなるとは思っていない。自分もあの舞台に立てると思っている」。悲願の“3度目の正直”へ、キム・ジンスは並々ならぬ意志を伝えた。
(構成=姜 亨起)
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