本日(2月14日)行われる北京五輪カーリング女子予選リーグの第8試合。
この試合で日本対韓国の対決が実現したことで、両国が大いに盛り上がっている。
「日本代表のロコ・ソラーレ、中国をコンシードで下し4連勝 韓国の“眼鏡先輩”と対決」(『報知新聞』)、「女子カーリング、宿命の韓日戦、4強への道、譲れない」(『文化日報』)などで、特に見出しとしてよく使われているのが、韓国の “メガネ先輩”キム・ウンジョンと日本の藤澤五月だ。
「メガネ先輩VS藤澤が再対決…4強行きの分かれ道で“真剣勝負”」(『世界日報』)
「フジ(サワ)山を超えてこそ4強に行ける。チーム・キム、韓日戦にかならず勝たねばならない理由」(『SPOTV NEWS』)
メガネ先輩はともかく、韓国でも藤澤五月が人気者であることを示す証拠だとも言えなくもない。韓国では藤澤が人気女優パク・ボヨンに似ていることから“日韓対決”前から話題になり、大手ポータルサイトのリアルタイム検索では「藤澤五月」が上位でランクインされたほどだった。
そんなこともあって、前回の平昌五輪同様、今回もふたりの対決軸を鮮明に打ち出して報じるメディアが多いが、普段は良好な関係であることは本人たちの言葉で明らかになっている。
前回・平昌五輪でのカーリング会場となった江陵(カンルン)カーリングセンターで昨年12月に行われたメディアデーで、キム・ウンジョンは『共同通信』の取材に対しこう語った。
「試合中に藤澤とすれ違う写真が撮られたのですが、その写真で彼女も(韓国で)有名になりました。彼女に直接、“そのことを知っている?“と話しながら、笑いあったこともあります」
試合を離れれば、互いに挨拶も交わす間柄であるわけだが、このとき、キム・ウンジョンは「藤澤とは12年前に初めて会ったと記憶しています。基本がしっかりしていて、ショットが本当にうまかった記憶がありますね」とも語っていたが、当時を知る『スポーツソウル』の五輪担当記者がその背景を教えてくれた。
「キム・ウンジョンは2010年から2年間、韓国ジュニア代表を務めたあと、2012年に初めて韓国代表となり、同年12月にカナダで行われたシャムロックショットガンというカーリング大会の決勝で藤澤五月と初対決して敗れています。キム・ウンジョンにとって藤澤の最初の印象は、苦い思い出ばかりだったと思いますよ」
その後もキム・ウンジョンは藤澤五月には勝てなかった。2012年11月のパシフィックアジアカーリング選手権の準決勝では藤澤が所属していた中部電力に敗れ、世界選手権出場にも失敗している。
だが、2016年のどうぎんカーリングクラシックで勝利。2017年パシフィックアジアカーリング選手権では決勝でロコ・ソラーレを下した。
そして迎えた2018年平昌五輪で対決。予選リーグでは日本が勝利したが、延長戦までもつれた準決勝で勝負を決めたのはキム・ウンジョンのスーパーショットだった。
大会直後、『スポーツソウル』はキム・ウンジョンを独占インタビューしているが、彼女は日本との対決をこう振り返ったという。
「ショットが決まった直後、自然と涙が溢れました。私だけでなく、多くの人々が泣いたと聞きましたが、みんなの願いが込められたショットとして記憶されると思うと嬉しいです」
最高の舞台で好敵手である藤澤五月と競り勝った末に得た勝利でもあったからこそ、キム・ウンジョンはこみ上げて来る涙を抑えられなかったのだろう。
この平昌五輪でチーム・キムとキム・ウンジョンは時の人となるが、韓国では藤澤五月も一躍、人気者に。
本紙『スポーツソウル』では、そんな藤澤五月本人からも話を聞くべく、本人に直撃取材をしたこともあった。
2018年11月、江陵で行われた2018年パシフィックアジアカーリング選手権に日本代表メンバーとして参加していた藤澤五月に取材を申し込んだのだ。当時のインタビューを担当した記者が言う。
「藤澤は試合が終わると私たち記者たちから質問攻めを受け、競技場の中では大会関係者から、競技場の外では韓国のファンたちから数多くサインを求められていました。それでも個別インビューに応えてくれてありがたく、彼女の対応にも驚きました」
また、藤澤五月が片言だが韓国語を混ぜながら語ったことも驚きだったという。
「少しずつですが、韓国語も学んでいると言っていました。指でハートマークを作りながら“韓国のファンたちにはいつも感謝している”と笑っていましたね。我々韓国メディアを警戒するのではないかと心配していましたが、むしろフレンドリーで好印象でしたね」
もちろん、キム・ウンジョンとチーム・キムについても藤澤は語ることをためらわなかったらしい。
このとき、チーム・キムは例のパワハラ被害を訴える告発会見直後で大揺れの状態。韓国代表の座はほかのチームに譲っていたが、藤澤五月はそんな彼女たちにエールを送りたいと、『スポーツソウル』の記者にこんなメッセージを託したというのだ。
「五輪のときに対戦した“チーム・キム”とまたいつか対戦したい。気になる。次の五輪でもいいし、世界選手権でもいい。彼女たちとの試合はいつも面白いから」
それから3年後の2021年12月。
世界最終予選でふたたび相まみえた藤澤五月とキム・ウンジョン。予選リーグ、順位決定戦と2連敗したのはキム・ウンジョンの方だったが、前出のメディアデーでは「五輪でふたたび対決するときは、自分たちのプレーができるよう努力する」と言ったあとで、こう付け加えたという。『スポーツソウル』の五輪取材班が教えてくれた。
「最終予選では2度負けましたが、五輪では私たちが勝つのではないかと思います」
ただ、今回ばかりは彼女とチーム・キムはかなり追い込まれた状態の中で日本戦に臨まなければならない。
藤澤五月らロコ・ソラーレは本日昼の中国戦も制する4連勝(通算4勝1敗)と、勢いに乗るなかで大一番を迎える一方、チーム・キムは延長戦の末に5-6で敗れた昨日の中国戦に続き、本日昼のアメリカ戦でも6-8で敗戦。2連敗を喫して通算成績を2勝3敗としているのだ。
10チームが総当たり方式で予選リーグを行なう今回の北京五倫では、予選上位4チームが次のステージに進出でき、その条件は最低でも5勝と言われている。今後、スイス、デンマーク(2月16日)、スウェーデン(2月17日)との対戦スケジュールを踏まえると、もはや一敗もできない状態だろう。
それでも、昨日敗れた中国戦の試合後には、「相手が日本だからといって特別な覚悟があるわけではないです。最近の対決で得た感じをしっかり生かして、日本を最大限、揺さぶれるようにしたい」と語ったというキム・ウンジョン。
それは自信か、はたまた強がりなのか。ただでさえ氷の上ではポーカーフェイスの“メガネ先輩”だけにその本心は定かではないが、筆者の韓国のスポーツ新聞仲間たちの間では、もはやカーリング女子日韓戦は、サッカーや野球に続く“韓日戦(=日韓戦)ビッグマッチ”になったと評判だ。
韓国ではマイナー競技だったカーリングを人気種目に押し上げたのは、キム・ウンジョンとチーム・キム、そしてその好敵手でもある藤澤五月とロコ・ソラーレの存在がとてつもなく大きい。
だからこそ、今回の北京五輪で最後になるかもしれない両者の対決。どちらも最高のパフォーマンスを発揮し、素晴らしい名勝負になることを期待したい。
(文=慎 武宏)
■【独占】藤澤五月が語った“韓国”と“メガネ先輩”「ここは私の幸運の地」
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