バッティングフォームというのは、まるで“指紋”のように人それぞれでバラバラだ。
ところが、元中日ドラゴンズのイ・ジョンボム(51)を父親に持つイ・ジョンフ(23、キウム・ヒーローズ)はいつも独特のバッティングを披露する。
相手投手の投球動作に合わせて一度体の動きをピタリと止め、タイミング良くバットを振る。柔らかなスイングもイ・ジョンフの特徴だ。
読売ジャイアンツなどで活躍し、韓国で“国民打者”と呼ばれるイ・スンヨプ(45)をはじめ、多くの野球専門家がイ・ジョンフのバッティングフォームに感心する理由はそこにある。
【インタビュー①】「謙虚な人間であれ」イ・ジョンフが元中日の父親イ・ジョンボムから受けた“教え”
イ・ジョンフは自身の打撃メカニズムについてこう説明する。
「すべての選手が自分だけのバッティングフォームを持っていると思います。僕の場合、ほかの選手を真似するというより、自分が一番しっかり打てる姿勢でバッティングをしていました。そしたら、今のフォームが体に染みついたようです。フォーム自体は高校時代と同じですが、プロ入りしてからさらに完成しつつあります。フォームを変えずにより上手く打てるよう、コーチが助けてくれました」
イ・ジョンフが所属するキウムは、伝統的に選手の長所を最大限引き出すことに追求する。
バッティングは生き物のように常に変化する。イ・ジョンフも高校時代のバッティングフォームをベースに、着実に修正して補完し続けている。プロで結果を残すためには当然のことだろう。
では、イ・ジョンフ独特のバッティングフォームの原型はどのようにして誕生したのだろうか。
「高校時代、個人的にスイングの練習をたくさんしていました。創意工夫を凝らしてあれこれやっていたら、いつの間にか自分にぴったりの打撃メカニズムを見つけられたのだと思います」
自分の力で最適なバッティングフォームを研究したイ・ジョンフ。安定してヒットを打てるようになったのには、特別なきっかけがあったというより、安打量産打者の共通項を見出したことがあるという。
「バッティングフォームのロールモデルは特にいませんでした。ただ、上手な選手のフォームをよく見れば、共通点を見出すことができます。バットを振った際に打つ面が広いのです。そうすればボールが当たる確率も高まり、良い打球が出る確率も高くなります。そのような点をベンチマーキングしようと努力しました」
教科書的な答案だ。プロの打者であれば誰でもその答えを知っている。ただ、そこで重要になるのは、その答えを頭と体で理解して、自分のものにすることだ。
イ・ジョンフの打撃メカニズムをもう少し詳しく見てみよう。彼は精巧なバッティングに比べ、フォームそのものとスイングはやや大きい方だ。
「ラインドライブで強い打球を生み出そうと思いながらバッティングしています。それに、フォロースルーも最後まで意識しています。最も重要なのは投手とのタイミングで、その部分に一番気を使っています。アークが大きいのでスイングが大きく見えるようです。前が広くなればその分後ろも多くなります。そのような効果を得るためにスイングを持っています。速球への対処に大きな問題は感じません」
打撃に完璧はない。その選手に最適なスイングを身につけられるかどうかが問題だ。
イ・ジョンフ自身もその部分で常に悩んでいる。自身の長所と短所を客観的に見つめ、完全体となることを渇望している。
イ・ジョンフは自身の長所について、「ほかの人よりもボールを当てる面が広いことが長所です。初めて相手にする投手のときも、タイミングを取る部分で有利だと思います」と語った。
続けて短所を聞いてみると、イ・ジョンフは長所よりも長く説明した。そして、来季以降のさらなる変身を予告した。
「短所と言えば、レッグキックをする選手に比べてパワーが落ちる点です。プロであれば常に発展しなければなりません。なので、いつもオフシーズンで修正と補完を図ります。今シーズンがどのような形で終わるかはわかりませんが、良い結果を残してから次のシーズンに備えるつもりです。おそらく、来シーズンが始まる前に自分なりの変化があるでしょう」
日韓の選手が多数進出している米メジャーリーグでは最近、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平(27)が注目の的だ。大谷は長い歴史の中で“アジア人の限界”と呼ばれた壁を破っている。投球面では100マイルの剛速球で優れた打者を打ち取り、打撃面ではホームランバッター級のパワーで本塁打を量産している。
その大谷もメジャーデビュー当時から何もかも上手く行ったわけではない。バッティングフォームを見直し、MLB投手のボールにも適応した。
大谷の活躍は、今後さらに大きな舞台でプレーすることを夢見るイ・ジョンフも注目しているはずだ。実際にMLBの舞台に立ってみなければわからないが、頭の中で描いている理想のバッティングフォームはあるのだろうか。
イ・ジョンフは自身がホームランバッターではない点に触れ、「いくら韓国で本塁打を放ったとしても、大舞台ではそれほど打てないでしょう。プロ前からコンタクトだけは人一倍うまかったと思っています。そのような長所をさらに極大化できるフォームへと発展していきたいです。もちろん、直接行ってみてわかることもあるはずです」と述べた。
また、「もし海外に進出するのであれば、今よりもボールは速く変化量も激しいはずです。なので、すべての可能性を念頭において変えていかなければならないと思います」と気丈に語った。
イ・ジョンフは外野手だ。MLBの外野手にはパワーヒッターが多い。自身の価値を最大限発揮するべく、ポジションを内野に変更する可能性はあるのか。
このことについて聞いてみると、イ・ジョンフは「内野守備は考えたこともありません。今やっている外野守備をさらに補完して発展させることが、選手としての価値にさらなるプラスをもたらすと思います」と力強く語っていた。
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