父親は“風の子”だ。それ以上に何の説明が必要だろうか。
韓国代表で東京五輪に出場したイ・ジョンフ(23、キウム・ヒーローズ)は、日韓の野球ファンの間ですでに知られている通り、元中日ドラゴンズのイ・ジョンボム(51)を父親に持つ選手だ。
そんな父親の下で育っただけに、イ・ジョンフにとって野球は幼い頃から常に身近な存在だった。しかし、父イ・ジョンボムはいざ息子が野球をやると言い出したときに一度反対したという。それでも、イ・ジョンフにとって野球は運命そのものだった。
「野球をするしかない環境でした。子どもの頃の写真を見ると、父親の野球道具で遊ぶ姿がたくさん写っていました。毎日見るのが(父親が)野球をする姿だったし、野球選手の人生でした。それが当たり前の環境でした」
「僕も野球が好きだったし、当然、野球をしなければならないと思って生きてきました。それが運命であるのならば」
プロ野球選手として活躍した父親は家を空ける日が多かった。将来、イ・ジョンフも家庭を持つことになれば、家族と一緒に過ごす時間も少なくなるだろう。毎日のように試合が行われる野球の特性上、仕方のないことだ。
父親の後を追って自身もプロ野球選手となったイ・ジョンフは、“野球”と“家族”についてどんな考えを抱いているのだろうか。彼は父親よりも母親との思い出を思い浮かべた。イ・ジョンフにとって母親は最も心強いファンであり支えだった。
「選手生活をするとなると、1年の半分は家を空けなければなりません。2月から11月まではトレーニングと試合が続きます。なので実際、父親との思い出より母親との思い出が多かったです。父親の空白を母親が埋めてくれました」
「僕も野球を始めてからは家族との思い出が多くありません。家庭を築くという考えはまだしたことがありませんが、それでも、一緒にいる時間だけは忠実に過ごしたいです」
プロ野球選手の父親を持つイ・ジョンフは、休日を家族と一緒に過ごした記憶があまりない。
秋夕(チュソク、韓国の大型連休)のエピソードを問われても、「特にありません。親戚の家も近かったので、大きく何かした記憶はないです。父親が選手生活をしていたときは秋夕を一緒に過ごすことが難しく、逆に引退後は僕が野球を始めたので(家族で秋夕を過ごす)機会がありませんでした」と答えた。まるで親子がバトンタッチしたかのようだ。
今や“イ・ジョンフの父親”と呼ばれるようになったイ・ジョンボム。そして、プロ野球選手の夫と結婚し、息子もプロ野球選手となった妻。2人はいつも、息子イ・ジョンフにお願いすることがある。野球以外の人間的な部分だ。
「“いつも謙虚で、ほかの人たちに優しくできる良い人間になりなさい”と言われてきました。野球に関するアドバイスよりも、人柄に関する話をたくさんしてくださりました」
韓国野球界では2世選手が飲酒などの事故で不祥事を起こしたケースがいくつかある。しかし、イ・ジョンフは両親との約束を守り、規則正しい選手生活を送っている。こうした姿勢は周囲の手本にもなっている。
イ・ジョンボムは韓国野球の歴史を輝かせたスター選手だ。だが、そんな彼でもたどり着けなかった夢がある。
イ・ジョンボムは国内の舞台を制覇した後、日本プロ野球の舞台に進出したが、頂点に立つことはできなかった。負傷が足を引っ張った。華やかなイ・ジョンボムの野球人生に惜しさが残る部分だ。では、息子が果たして父親の夢を叶えることはできるのだろうか。
「まだ先のことはわかりません。夢を見るよりも目の前の試合を上手くやりたい。未来についても考えていません。今もチームがポストシーズンに進めるかどうかわからない状況です」
「今は目の前の試合だけを見て、自分にできることに最善を尽くしたいです。毎日最善を尽くして、いつか機会が来たら、そのときに考えてみようと思います」
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