空の星になった“人生の師匠”の魂が込められた地で、勝利の咆哮を轟かすことはできるのだろうか。
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U-24韓国代表の“末っ子”イ・ガンイン(20、バレンシア)は、本日(7月28日)午後5時30分に横浜国際総合競技場でキックオフする東京五輪・男子サッカーのグループB最終節U-24ホンジュラス代表戦への出場を控えている。
グループBは韓国、ホンジュラス、ニュージーランド、ルーマニアの全チームが1勝1敗の勝ち点3を記録するなか、韓国が得失点差で他を上回り、首位に立っている。
韓国はホンジュラス戦で引き分けても決勝トーナメント進出が可能だ。歴代対戦成績でも2勝1分1敗と優位に立つ。ただ、前回の2016年リオ五輪では決勝トーナメント準々決勝で0-1と敗れた相手なだけに、今回の東京五輪は“雪辱戦”となる見込みだ。
イ・ガンインとしては、横浜国際総合競技場での試合に特別な感情を抱いていることだろう。韓国の決勝トーナメント進出がかかった試合でありながら、かつて“師匠”が立ったピッチでプレーするからだ。
韓国対ホンジュラスが行われる横浜国際総合競技場は、イ・ガンインのサッカー人生に多大な影響を与えた故ユ・サンチョルさんが、1990年から2000年、2003年から2004年に在籍した横浜F・マリノスのホームスタジアムだ。
イ・ガンインは去る2007年、韓国で放送されたスポーツバラエティ番組『飛べ、シュットリ』でFCシュットリの監督を務めたユ・サンチョルさんの指導を受け、並外れたサッカーの才能を認められ夢を育んだ。彼自身、「当時の(ユ・サンチョルさんの)教えが、これまで歩んできたサッカー人生の意味ある第一歩だ」と話す。その後、イ・ガンインはスペインにサッカー留学し、今はラ・リーガを舞台にプレーをしている。
すい臓がんとの闘病の末、今年6月7日にこの世を去ったユ・サンチョルさん。彼は生前、抗がん治療を受ける際に「健康な一週間が与えられたなら、(イ・)ガンインの試合を直接見たい」と話したことがあった。しかし、その望みが実現することはなかった。
東京五輪に向けて準備を進めていたイ・ガンインも、ユ・サンチョルさん死去の知らせを耳にした後、目頭を熱くしてしばらく言葉を発することができなかった。
ユ・サンチョルさんはマリノスで不屈の闘魂を発揮した。チームが史上初のJリーグ2連覇(2003~2004年)を達成したときも、彼は主力として活躍していた。
当時の活躍を記憶するマリノスサポーターは、ユ・サンチョルさんの闘病中に「“できる” ユ・サンチョルヒョン(兄貴)!」という横断幕を掲げた。マリノスも、ユ・サンチョルさんがこの世を去った後に行われた天皇杯のHonda FC戦で喪章を着用し、ルヴァン・カップの北海道コンサドーレ札幌線で黙祷の時間を設けた。それほど、ユ・サンチョルさんの存在が大きかったという意味だ。
それだけに、ユ・サンチョルさんが誰よりも可愛がってその才能を認めたイ・ガンインが、“恩師”が活躍した横浜の地でプレーするということは非常に意味深い。
幼い頃から“飛び級”のアイコンとして知られたイ・ガンインは、先月に初めてキム・ハクボム監督率いるU-24韓国代表に合流し、最終エントリー22人にも含まれた。ただ、東京五輪初戦のニュージーランド戦で、イ・ガンインはやや空回りした様子を見せた。
もっとも、イ・ガンインは東京五輪世代の選手と連携を深める時間が短かった。キム監督も短期間でシナジー効果を発揮しようと努力したが容易ではなかった。韓国の最大の長所はスピードと機動力だが、ニュージーランド戦ではイ・ガンインがボールを持った際にほかの攻撃陣との息が合わなかった。彼の持ち味である“キラーパス”も、この試合ではあまり見られなかった。
こうしたプレーぶりから「イ・ガンインが足かせになるのではないか」という声も出たが、イ・ガンインは第2節のルーマニア戦で反転のカギを見つけた。この試合でベンチスタートだった彼は後半途中に交代で出場すると、“ゼロトップ”を務めながらウィングの動きを引き出し、ときにはフィニッシャーとしての役割も果たした。
キム監督の采配は的中した。イ・ガンインは後半終盤にPKで大会初ゴールを決めると、直後には見事な左足シュートで追加点を挙げ、2ゴールを記録した。
自信を取り戻したイ・ガンインは、来るホンジュラス戦で一層余裕を持ってプレーできるものとみられる。ホンジュラスはスピードに優れる2列目の選手が多いが、攻守の切り替えは遅い。そこを突くためには、イ・ガンインの正確なパスと余裕あるフィニッシュが必要だ。先発であれジョーカーであれ、重要な役割を任せられることに変わりはない。
果たして、イ・ガンインは“ロンドン五輪以上”を目標に掲げる韓国を、先ずは決勝トーナメントに導くことができるだろうか。
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