例えば、2012年ロンドン五輪の男子サッカー3位決定戦で日本を下して銅メダルを手にするも、その後伸び悩んだ一部の韓国代表選手に対しては「中国に行って金を稼げという意味の兵役免除ではない」と指摘するメディアもあった。
2014年アジア大会の野球競技ではアマチュア主体の他国に対して、韓国は兵役未修了のプロ選手で固めて金メダルを勝ち取ったことで、「大人気ない」「兵役免除のための手段」と皮肉られた。
そんななかで昨年は「芸術・体育要員特例制度」の是非が問われる2つの出来事があった。
1つは2018年ジャカルタ・アジア大会だ。
野球競技で韓国は優勝したが、優勝メンバーの一部選手に対し、兵役免除のための請託人選があったのではないかという疑いがもたれ、チームを率いていたソン・ドンヨル監督が国会の国政監査で証人として尋問されるほどの問題となった。
そして11月には、サッカー韓国代表チャン・ヒョンスの兵役義務捏造が発覚。
2014年アジア大会で男子サッカーの金メダルを手にしたチャン・ヒョンスは、「芸術・体育要員」に義務づけられていたボランティア活動を怠り、報告書類に虚偽記載していた。チャン・ヒョンスはこの一件で韓国代表を永久追放処分になっている。
これらの問題が相次いだことにより、韓国政府は今年初めに国防部、兵務庁、文化体育観光部(日本の文科省に相当)で構成した“兵役特例関連制度改善タクスフォース(TF)”を発足させ、「芸術・体育要員特例制度」の公平性や見直しを検討した。
そのなかにはオリンピックやアジア大会、さらには芸術分野の成績だけに限定された規定を拡大する案はもちろん、一説によると、「芸術・体育要員特例制度」の廃止の可能性まで議論したという。
つまり、「芸術・体育要員特例制度」が撤廃される可能性もあったわけだ。
規定拡大はならなかったので、BTSやイ・ガンインが成し遂げた功績が即・兵役免除につながることはなかったが、「芸術・体育要員特例制度」が完全廃止されると、特にスポーツ選手などは競技生活にも関係してくれるので一安心というところだろう。
イ・ガンインの場合、来年の東京五輪や3年後のアジア大会など、まだまだチャンスはあるわけなのだから。
ちなみに、与党「共に民主党」のキム・ビョンギ議員が兵務庁から提出を受けて発表した資料によると、2009年から2018年7月までの10年間で、「芸術・体育要員特例制度」の恩恵を授かったアスリートは178人。その内訳もアジア大会119人、オリンピック59人だという。
2014年仁川アジア大会が66人、2010年広州アジア大会が42人、2008年北京五輪が20人と、大会別の詳しい内訳も公開されいるが、はたして来年の東京五輪で体育要員資格を授かるアスリートは、どれほどの数になるだろう。
いずれにしても今回の「芸術・体育要員特例制度」の見直しに関しては、BTSも関連性があったことで日本でも取り上げられ、その存在を初めて知った方々もいるに違いない。
世界には兵役を国民の義務とする国があるが、そのひとつが日本のすぐ隣にある。しかも、スポーツやエンターテインメントも兵役問題は避けられない。
この事実がとてつもなく重く感じるのは、私だけだろうか。
(文=慎 武宏)